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V字回復のためには社員に「個人の痛み」を迫る覚悟を持て

企業改革の核心は何か(1)組織の危機をいかに克服するか

三枝匡
株式会社ミスミグループ本社名誉会長、第2期創業者
概要・テキスト
ターンアラウンド・スペシャリスト(事業再生専門家)として、コマツ産機をはじめ数々の企業再生を成し遂げ、またミスミグループの経営にも長年あたってこられた三枝匡氏。今回は特に著書『V字回復の経営(増補改訂版)』の内容を中心に、企業改革の核心は何かについて話を聞く。第1話では、企業が「自然死的衰退への緩慢なプロセス」に入ってしまった場合の対処に迫る。大企業の場合、経営が傾いてから倒産に至るまでに10年~20年の時間がかかることが多い。だがその過程では、社員はなかなか真の危機感を抱けない。気づいたときには「手遅れ」ということにもなりかねないのである。では、どうすれば良いのか?(全2話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:14:38
収録日:2020/11/09
追加日:2021/02/17
キーワード:
≪全文≫

●火がついてきたときには、会社はもう「終わり」


―― 三枝匡先生の『V字回復の経営――2年で会社を変えられますか(増補改訂版)』(日本経済新聞出版)は、完璧な名著ですよね、一冊で。ターンアラウンド(事業再生)で、勝てる勝負の場所に持っていってしまう。これは、すごいことです。

三枝 それはやはり、それまでの経験があって、(企業の)病気を見たり、経験したりしているからです。だから、よく言うのですが、窓が「パッ」と少しだけ開いたときに、向こうに見える景色の中に、あってはいけないものがある。あってはいけないものがあって変なのか、本当はあるべきものがないのか、なくていいものがあるのか。そういう異常を、会社の中で歩いていてパッと通り過ぎたときに、ハッと気づけるかどうかが、経営者の腕なのです。

 (経営者は)自分で直接なんかできません。しかし、「ちょっと小耳に挟んだ」とか「誰かと冗談で話していたら、何か変なこと言ったな」とかいうことがある。それがつまり、「(ドアが)パッと開く」ということです。それで、「あるべきものがそこにない」あるいは「あってはいけないものがそこにある」というようなことに気づいたら、もうドアはすぐに通り過ぎて閉まってしまいますから、すぐに入っていって、近づいていって、「どうなっちゃっているの」と聞くわけです。

 そういうときは、もう自分のほうから、上の人間が自ら、ずかずかずかと入っていく。どんなところであろうが、もう社長ですから偉いのですから、どこでも入れますから。行って、「これ、何?」などと聞くわけです。

 それで、実は、自分が「何かおかしいな」と検知したつもりが別に異常はないと思えば、さっさと引き上げる。「あ、やっぱり変だと」思えば、「これは何だ?」ということになる。それが重要な問題だったら自分が直接入っていく。そのような行動になっていくわけです。

 だから、そういうものに気づいて、まだ会社が元気なうちに、つまり、会社としての選択肢がいろいろありうるときに、そういうことができる経営者がやっていたら、早め早めにそういう問題が直され、フィックスされていって、会社っていうのは元気でいつづけられるわけです。しかし、ダメになる会社は、それに気づく経営者がいない。気づいたとしても動く人がいない。放っておく。そういうことをやっていると、だんだん、だんだん、...
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