●火がついてきたときには、会社はもう「終わり」
―― 三枝匡先生の『V字回復の経営――2年で会社を変えられますか(増補改訂版)』(日本経済新聞出版)は、完璧な名著ですよね、一冊で。ターンアラウンド(事業再生)で、勝てる勝負の場所に持っていってしまう。これは、すごいことです。
三枝 それはやはり、それまでの経験があって、(企業の)病気を見たり、経験したりしているからです。だから、よく言うのですが、窓が「パッ」と少しだけ開いたときに、向こうに見える景色の中に、あってはいけないものがある。あってはいけないものがあって変なのか、本当はあるべきものがないのか、なくていいものがあるのか。そういう異常を、会社の中で歩いていてパッと通り過ぎたときに、ハッと気づけるかどうかが、経営者の腕なのです。
(経営者は)自分で直接なんかできません。しかし、「ちょっと小耳に挟んだ」とか「誰かと冗談で話していたら、何か変なこと言ったな」とかいうことがある。それがつまり、「(ドアが)パッと開く」ということです。それで、「あるべきものがそこにない」あるいは「あってはいけないものがそこにある」というようなことに気づいたら、もうドアはすぐに通り過ぎて閉まってしまいますから、すぐに入っていって、近づいていって、「どうなっちゃっているの」と聞くわけです。
そういうときは、もう自分のほうから、上の人間が自ら、ずかずかずかと入っていく。どんなところであろうが、もう社長ですから偉いのですから、どこでも入れますから。行って、「これ、何?」などと聞くわけです。
それで、実は、自分が「何かおかしいな」と検知したつもりが別に異常はないと思えば、さっさと引き上げる。「あ、やっぱり変だと」思えば、「これは何だ?」ということになる。それが重要な問題だったら自分が直接入っていく。そのような行動になっていくわけです。
だから、そういうものに気づいて、まだ会社が元気なうちに、つまり、会社としての選択肢がいろいろありうるときに、そういうことができる経営者がやっていたら、早め早めにそういう問題が直され、フィックスされていって、会社っていうのは元気でいつづけられるわけです。しかし、ダメになる会社は、それに気づく経営者がいない。気づいたとしても動く人がいない。放っておく。そういうことをやっていると、だんだん、だんだん、...