●「長距離・高速」以外にもある電気自動車の方向性
―― 電気自動車を、どのように見ておられますか? 急速にゲームチェンジの材料として、どんどん進んでいくのでしょうか。
西川 二つあります。一つは、大きなメガトレンドがカーボンフリーに向かっていきますから、自動車もそちらへ行くと思う。今や新車を出したときに「電気の影は一つもありません。ただのエンジンです」と説明するのは、だんだん難しくなってきました。メガトレンドとしてそちらへ向かっていくことは間違いないです。
一方で、電気自動車の商品のあり方として、テスラのように「長距離・高速」という、移動手段としてのエキサイティングな部分を強調したハイバリューなものも作れます。今の状態では、単価が高いほうが作りやすいですから、そちらの方向性が一つある。
ただ、メガトレンドして見るとそれだけではありません。普通の車や、小さなモーターを使った近距離のコミューターという方向性もあります。今動いている、地域の公共輸送機関の代替のようなかたちで、これが電気で動くものになり、個人の自由であっちへ行ったりこっちへ行ったりするようなコミューター的な方向まであります。
商品として、あるいは事業として、どの領域をどういうふうに進めていくのかは、これからの話です。いつごろ、どうなるかというのを含めて、まだまだ正確には見えないと思います。
ただ、メガトレンドとしてそちらに向かっていることは間違いないです。
●日本の会社が電気自動車でフロントランナーになる道
西川 自動車の会社としてみると、どういう商品で、どういうビジネスモデルをつくっていくかが一つの大きなポイントです。今、「従来型で行きますよ」というのはあるでしょうし、メガトレンドが変わっていくにつれ、こちら側にシフトする、あるいは何かを付加したりするのかは、ビジネスの選択肢として一つあると思うのです。そこはまだ、日本の各OEMも、これから直面していく、これから選択をされていく部分だと思います。
テスラが先行している部分もありますが、技術的な先行度合いで見ると、日本の会社は皆さん実践していて、技術的には十分先行していけると思うのですが、さっき言った、どういう方向のビジネスにしていくのかというところですね。
それから、業界的に見ると「全固体電池」が出てきて、大幅にコストが下がるだろうと言われています。その段階で、技術的には進んでいたとしても、どういうレベルで生産投資をして、供給能力を確保するか。これは一つ、ビジネスの大きなディシジョンとして、これから出てくると思います。
早すぎたら投資の負担が大きくなるし、遅すぎればそのトレンドに遅れます。そこで、日本の会社が遅れずに適切なタイミングで投資をしていけるかどうかというのが、競争の上でフロントランナーでいられるポイントかと思います。
参入障壁が減るのは間違いないので、いろいろなプレーヤーが出てくると思うのですが、出てきても、切られるのもまた早い。最終的にどういうところが強くなっていくかというと、やはり技術的な先行度がある程度あることと、継続的な投資ができるということが、最低条件になります。その上で、どういう商品をお客様に提供するかというタイミングとバリエーションの戦略が適切であるところ。さらに、供給能力として、あるタイミングで適切な投資をする判断ですね。
そういうところがたぶん強くなっていくということで、それは既存のメーカーやOEMでもあり得るし、既存のOEMとしては非常に小さいところが別の業界と組んで大きくなるということもあると思います。
●成功と失敗のポイントは劇的には訪れない
西川 いろいろあると思うのですが、ある方向でポンとゲームチェンジが行われるわけではなくて、今挙げたような要素で、強くなるところとそうでないところが、これから先は分かりやすい状況になると思うのです。
ただ、「それが、いつか」は難しいですけれど、全固体電池がかなり大きく量産化されるタイミングが、一つの節目としてあります。技術的には2025年にはできると言っていますけれども、2025年にできたとしても、その段階で車が全部変わるわけではない。ですから、どのタイミングでどう投資していくかというのが、それから先のレースです。そのなかで伸びるところと伸びないところが出てくるというふうに思います。
単一の要素でコロッと変わるということではないと思いますね。全固体電池は大変な武器になると言っていますけれども、量産化して投資していく段階で決め手になるとはいえ、ある段階まで行ったら、これがもうデファクトで当たり前になりますから、それはきっと競争要件ではなくなっていくわけです。
今から見ると、ここにドラマティックな...