●民間型のデジタル通貨と通貨単位の問題
―― 中国では、アリババが発行したアリペイをめぐって、アリババのジャック・マー氏が弾圧されたような話も流れてきています。中央銀行デジタル通貨のようなものと民間型のデジタル通貨のようなものがあり、国家としては、民間型が増えてくると金融政策等々もなかなかやりづらいことになるのだろうと思うのですが、政府はどう判断していくものなのでしょうか。
柳川 まず区別をしたほうがいいのは、どういう通貨単位を使うかということです。前半ではPasmoやSuicaを例に出しましたが、ああいうものの通貨単位は基本的に日本円です。
そのもとで取引をしているとすると、日本円である以上、デジタル通貨を出し入れして増減する裏側に日本円の資産が担保としていないといけないわけです。それが100パーセントリンクしているかどうかは別にして、ある程度リンクしているとすると、中央銀行が日本円をコントロールしている限りは、各民間企業が発行するデジタル通貨の量もおよそコントロールできるという形になるということです。
だから、例えば100万円の電子マネーを発行しようとすると、手元にキャッシュか中央銀行のアカウントか何か、中央銀行デジタル通貨であれば中央銀行デジタル通貨の形で100万円持っていなければ発行できない、そういう形でコントロールができます。
あるいは今のプリペイドカードみたいな話では、預託金が半分あればいい。つまり50万円のキャッシュなり、中央銀行のアカウントを持っていないといけないということ。この場合は倍額発行できるわけですが、それでも勝手にできるわけではないという意味で、中央銀行のコントロール下にあります。そういうことなので、あまり今と変わらない。
変わり得るとすると、さっき申し上げたように、金融機関外の人がマネーに近いものを発行することをどう考えるかということにすぎないです。
●独自の通貨単位が日本円と無関係の世界をつくりだす
柳川 その一方、独自の単位で通貨を発行するとなると、これは状況がだいぶ変わってくる話です。それは、独自の通貨圏を形成するかもしれない。細かい話でいけば、どれぐらいその裏側に資産を持っているのか。何の資産を持っているのか。例えば「Libra」という独自の単位を出したとすると、日本円でどれだけの価値を持ち、ドルだとどうなるのかといったことで、構造がだいぶ変わってくるわけです。
なので、このあたりが結局、Libraを発行しようと思ったときに、「どういうものを担保として持っているのですか。何も担保なく勝手に発行したとすると、それは問題が起きるのではないですか」という話になっている。今のところ、いろいろな資産をかなり持っているという話になっていますけれども、そうなると日本円だけを持っているのとは大きく構造が違ってくるということです。
さらに少し面白い話として、結局その通貨の中だけで話を閉じてしまう(通用することになる)と、通貨圏が経済圏になり得るということがあります。
分かりやすい話でいうと、今までもいろいろな会社が電子マネー的なものをいっぱい出してきました。その時によくいわれたのが、「その電子マネー経済圏をつくるのだ」ということ。この掛け声のもと、電子マネーが一所懸命発行されてきました。
今までだと、そうはいっても自分が日頃利用あるいは決済しているSuica・Pasmoで全ての取引ができるかというと、そんなことはなかったし、そもそも自分はPasmoで給料をもらっているわけではない。しかし、独自の通貨単位として、かつ給料もその通貨だけでもらうようなことになってくると、まさにその世界で生きることになってきて、日本円とまったく無関係になれる。
極端な話になりますが、あえてA会社ポイントのようなものを仮定してみましょう。給料として「何十万Aポイント」をもらっていて、支払いもそのポイントでやっていく人が出てくると、極端にいえば日本円と関係のない世界で、全てのお金のやり取りを済ませるような世界が起きるかもしれない。これは、一つの別の国ができるみたいな構造になるわけです。こういうものができると、民間事業者からすると独立国をつくれるようなもので、非常にメリットもあるでしょうし、経済活動も活発になる。
非常に簡単にいうと、これがフェイスブックの最初に狙ったことでした。そういうものがどこまでいくのがいいのかは分からないですが、先ほどの国ごとの通貨間競争に加えて、民間側からもそういうものが出てくるという話は、大きいです。
●日本にいてドル建ての生活も絵空事ではない
柳川 給与振込が大事ではないかと強調しましたが、結局、今までだと通常入ってくるのは日本円で、払うのは電子マネーの場合もあったという話です。その意味で電子マ...