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スポーツで健康寿命を延ばす…なぜ意義が語られないのか

東京五輪を考える(2)東京開催の意義と「失敗の本質」

猪瀬直樹
作家
情報・テキスト
猪瀬氏は、オリンピック招致にあたって、「スポーツで健康寿命を延ばす」というビジョンを打ち出した。現在、日本では男性も女性も、平均寿命と健康寿命とで10年もの差がある。つまりそれだけの期間、車椅子になったり、寝たきりになったりしてしまう人が多いということだ。スポーツによって健康寿命を延ばすことができれば、少子高齢化社会を幸せな社会にできるし、医療費や介護費の膨張も防ぐことができる。さらに、公約したように「お金のかからない五輪」にするために、当時、トヨタ自動車の名誉会長で日本体育協会会長だった張富士夫氏に組織委員会の会長を引き受けてもらおうと考えていた。ところが……。失敗の本質がどこにあったのか、なぜマイナスな側面ばかりに光が当てられることになってしまったのかを明かす。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:06
収録日:2021/06/25
追加日:2021/07/13
タグ:
≪全文≫

●平均寿命と健康寿命の差をスポーツで縮めよう


猪瀬 僕は、2013年の1月から(その前の12月から都知事になったので)、招致委員会の会長として、招致活動の解禁ということになりました。そうするとそこから9月8日のブエノスアイレスまで、9カ月のレースが始まるわけです、イスタンブール、マドリードと。これは闘いなんですね。

 そのときにレースをやりながら、これは何のためにやっているのかということを都民、国民の皆さんに説明する必要があるので、説明したのは、平均寿命と健康寿命の差です(資料:健康寿命と平均寿命の推移)。

 女の人は、(平均寿命が)どんどん延びていって87歳まで生きられる。ところが、健康寿命は75歳なのです。男の人も、平均寿命が80歳で、健康寿命が72歳などになっている。(その差が)10年あるわけです。この10年が何かというということです。

 この10年は、車椅子であったり、寝たきりになってしまったり、人の手助けが必要になる。その健康寿命から平均寿命までの間の10年を縮める。健康寿命を延ばす。そのためには、皆さん、スポーツをやりましょう、ということです。

 それで僕もちょうど、その少し前くらいからランニングを始めまして、毎月最低50キロは走るようにして(いまApple Watchをやっていますけれどもね)、それで「東京マラソン」も出たんですね。

 そういうことでIOC(国際オリンピック委員会)の委員に、「スポーツを、自分たちはこうやっているんだよ」ということをアピールしていったのです。僕はテニスもやって、一応、空手も黒帯だから、そういうことで「スポーツマンだ」ということをアピールした。大したスポーツマンではないのだけれども、こういう目標でやっていますということをアピールした。そういうことが、大事なんです。

 さらにもう少しいうと、国民医療費43兆円、介護費12兆円、合わせると55兆円なのです(資料:医療・介護産業55兆円)。55兆円産業というと、ご存じですか。トヨタ、日産をはじめとした日本の自動車産業が55兆円産業なんですね。雇用は医療・介護も600万人、自動車産業も600万人。つまり、GDP(国内総生産)の1割なのです。

 GDPの1割の規模の産業が、日本には自動車産業と、医療・介護産業の2つある。しかし、医療介護は、公金市場なので、コスト意識がなかなかできていない。これを減らしていかないと、どんどん膨らんでいくだけではないか、ということです。そうしたら、少子高齢化がどんどん大変になっていきますから。

 そうしたことを含めて、オリンピックの招致活動の課題としてアピールしたのです。だから最後にブエノスアイレスの決戦で勝つ直前に、90%以上の支持率があったんですね。


●なぜ支持率が下がってしまったのか?


猪瀬 実はその後、問題は、僕が招致活動をやってブエノスアイレスで決まった後、突然、新聞に「新国立競技場、3000億円」というリーク記事が出るのです。「えっ?」と僕は思ったんですね。「予定価格1300億円でも高いのに、3000億円というのは、これは何だ」と。

 そのあたりから話がおかしくなってきて、これは明らかに、森喜朗さんとか、そういう人たちの世界があったということですよね。

 そういうことで、僕に対する批判もものすごく殺到して僕が辞めた後、組織委員会の会長に森喜朗さんがなる。そうするとそこに、お友達内閣や業界的な内閣ができて、組織委員会が腐食する。腐りはじめるんですね。そこから支持率が、どんどんどんどん落ちていく。そして現在のコロナ禍でさらに低迷した。これが現状ですよね。

 それからもう一つ大事なことは、僕はお金がかからないようなオリンピックを考えていました。招致に成功した2013年9月8日の1カ月後に、次は組織委員会の会長を決めなければならなくなった。それでJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和会長と僕で、つまり、あのとき(東京オリンピック開催都市契約に)サインしたのはJOCの竹田会長と都知事の僕なんですね。安倍(晋三)総理はサインしていないんですよね。で、その2人で話し合って、組織委員会の会長を決めておこうと。それでトヨタの張富士夫さんにお願いに行ったんですね。

 張富士夫さんは、ちょうど体協の会長でしたから(第15代日本体育協会会長)、ちょうどいいし、それからトヨタは世界一のケチケチ会社だから、コスト意識が高い。ガバナンスをきちっとやってきた人で、名誉会長になっているわけだから、仕事を退いて、時間はある。

 「張富士夫さん、1つ、組織委員会の会長をよろしくお願いします」。ということで、張富士夫さんも内諾ですから。「まあ、よかろう」という感じで受け止めていただいた。

 そこで張富士夫さんを組織委員会の会長にすれば、ガバナンスもしっかりするし、コスト意識もある。

 そこに...
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