●平均寿命と健康寿命の差をスポーツで縮めよう
猪瀬 僕は、2013年の1月から(その前の12月から都知事になったので)、招致委員会の会長として、招致活動の解禁ということになりました。そうするとそこから9月8日のブエノスアイレスまで、9カ月のレースが始まるわけです、イスタンブール、マドリードと。これは闘いなんですね。
そのときにレースをやりながら、これは何のためにやっているのかということを都民、国民の皆さんに説明する必要があるので、説明したのは、平均寿命と健康寿命の差です(資料:健康寿命と平均寿命の推移)。
女の人は、(平均寿命が)どんどん延びていって87歳まで生きられる。ところが、健康寿命は75歳なのです。男の人も、平均寿命が80歳で、健康寿命が72歳などになっている。(その差が)10年あるわけです。この10年が何かというということです。
この10年は、車椅子であったり、寝たきりになってしまったり、人の手助けが必要になる。その健康寿命から平均寿命までの間の10年を縮める。健康寿命を延ばす。そのためには、皆さん、スポーツをやりましょう、ということです。
それで僕もちょうど、その少し前くらいからランニングを始めまして、毎月最低50キロは走るようにして(いまApple Watchをやっていますけれどもね)、それで「東京マラソン」も出たんですね。
そういうことでIOC(国際オリンピック委員会)の委員に、「スポーツを、自分たちはこうやっているんだよ」ということをアピールしていったのです。僕はテニスもやって、一応、空手も黒帯だから、そういうことで「スポーツマンだ」ということをアピールした。大したスポーツマンではないのだけれども、こういう目標でやっていますということをアピールした。そういうことが、大事なんです。
さらにもう少しいうと、国民医療費43兆円、介護費12兆円、合わせると55兆円なのです(資料:医療・介護産業55兆円)。55兆円産業というと、ご存じですか。トヨタ、日産をはじめとした日本の自動車産業が55兆円産業なんですね。雇用は医療・介護も600万人、自動車産業も600万人。つまり、GDP(国内総生産)の1割なのです。
GDPの1割の規模の産業が、日本には自動車産業と、医療・介護産業の2つある。しかし、医療介護は、公金市場なので、コスト意識がなかなかできていない。これを減らしていかないと、どんどん膨らんでいくだけではないか、ということです。そうしたら、少子高齢化がどんどん大変になっていきますから。
そうしたことを含めて、オリンピックの招致活動の課題としてアピールしたのです。だから最後にブエノスアイレスの決戦で勝つ直前に、90%以上の支持率があったんですね。
●なぜ支持率が下がってしまったのか?
猪瀬 実はその後、問題は、僕が招致活動をやってブエノスアイレスで決まった後、突然、新聞に「新国立競技場、3000億円」というリーク記事が出るのです。「えっ?」と僕は思ったんですね。「予定価格1300億円でも高いのに、3000億円というのは、これは何だ」と。
そのあたりから話がおかしくなってきて、これは明らかに、森喜朗さんとか、そういう人たちの世界があったということですよね。
そういうことで、僕に対する批判もものすごく殺到して僕が辞めた後、組織委員会の会長に森喜朗さんがなる。そうするとそこに、お友達内閣や業界的な内閣ができて、組織委員会が腐食する。腐りはじめるんですね。そこから支持率が、どんどんどんどん落ちていく。そして現在のコロナ禍でさらに低迷した。これが現状ですよね。
それからもう一つ大事なことは、僕はお金がかからないようなオリンピックを考えていました。招致に成功した2013年9月8日の1カ月後に、次は組織委員会の会長を決めなければならなくなった。それでJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和会長と僕で、つまり、あのとき(東京オリンピック開催都市契約に)サインしたのはJOCの竹田会長と都知事の僕なんですね。安倍(晋三)総理はサインしていないんですよね。で、その2人で話し合って、組織委員会の会長を決めておこうと。それでトヨタの張富士夫さんにお願いに行ったんですね。
張富士夫さんは、ちょうど体協の会長でしたから(第15代日本体育協会会長)、ちょうどいいし、それからトヨタは世界一のケチケチ会社だから、コスト意識が高い。ガバナンスをきちっとやってきた人で、名誉会長になっているわけだから、仕事を退いて、時間はある。
「張富士夫さん、1つ、組織委員会の会長をよろしくお願いします」。ということで、張富士夫さんも内諾ですから。「まあ、よかろう」という感じで受け止めていただいた。
そこで張富士夫さんを組織委員会の会長にすれば、ガバナンスもしっかりするし、コスト意識もある。
そこに...