●招致の「不正」問題の真相とは?
猪瀬 それからこのあいだ、宮本亜門さんが、オリンピックの招致が決まったその日の会場で、「現金を配ったんだよ」といった人がいると。いった人が誰かは、これは推測してもらうしかないけど、皆さん、おわかりですよね。宮本亜門さんも、ちゃんといえばいいじゃないかと思います。
だけど、はっきりいって、オリンピックの招致は非常にフェアにやったのです。サマランチ会長が辞めて、2001年以降は、一切、贈り物はいけないということで、招致活動も非常に厳しかったです。
たとえば、直接ご飯をご馳走(ごちそう)してはいけないとか、そういう厳しいルールがいっぱいある。そうすると、どうやってIOCの委員にアピールしたらいいのか。で、いろいろ考えて、ロンドンオリンピックの招致活動に頑張った人に聞いたんですよ。
そうしたらね、たとえばオペラの会場に行く。すると、IOC委員がオペラを予約した席がわかっている。その隣の席を取るわけです。それで、そのオペラに行って、「たまたま、お隣ですね」といって、仲良くなって話をする。『007』の国ですから、そのくらいのことはできてしまうのです。
だから僕も、そういうつもりでやりましたよ。会合の流れのなかで、「ちょっとお茶でも飲みませんかね」なんていいながら、うまく話をしながら、ご飯をたべるくらいのことをやりました。だから、(お金を配るなどということは)絶対にできないわけ。
ところが、それを破った人が、日本側にいたということです。だけど、それでオリンピックが取れたわけではないですから。それは2~3票は取れたかもしれないけれど。オリンピック全体は100票あるわけで、正しい票がほとんどですから。
だから、そういうことをやった人が、「それで自分が取ってきたんだ」などという顔をしていることが問題なんですね。そうじゃなくて、非常にフェアにやったんですね。
結局、それで犠牲になったのは、竹田恆和JOC会長が辞めざるをえなくなりましたよね。フランスの検察に呼ばれるということで。だから彼はそれで、詰め腹を切らされてしまったんですよね。
セネガルという国がありますが、その(お金を渡したという)変な人がやった話というのは、セネガル国籍の人なんですよね。なんでフランスの検察が、あんなにオリンピックのことをやっているのかといえば、セネガルはフランスの植民地だった。宗主国として、監視している必要があるから、フランスの検察はしつこかったわけです。実はあそこにはずっと独裁者がいて、それが1回引っ込んだのに、また復帰しようとしていたので、それでフランス検察は非常に神経質になっていた。それで、その話があったわけですね。
●日常性のリズムにおける「祝祭」の重要性
猪瀬 それで話は戻して、「祝祭」ということは何かということに触れると、たかが2週間~3週間の話に、なんでそんなに金をかけるのか、という言い方があります。イベントというのは、みんなお金がかかるんですけどね(もちろん無駄な金はいけませんよ)。これは徳島の阿波踊りとか、博多の山笠とか、7年に1回の諏訪の御柱とか、あるいは青森のねぶたとか、みんな1年に1回、3日~4日のために働いているんですよ。
だから、何のために働いているかというと、祝祭空間があって、そして、そのために働く。もちろん、普段、いろいろな冠婚葬祭とか、いろいろなものがある。冠婚葬祭的ないろいろなお祭りがあり、また、静寂があり、というのが日常性のリズムであって、ただ働いているわけではないんですね。
「会社の仕事が面白いから」というのは、それはそれでいいのです。だけど、それだけではないんですね。家庭があったり、地域があったり、いろいろなものがあって、そこに祝祭性というものが必ず入り込んでくる。それが日常性のメリハリなんですね。
それが世界的な規模で、100年以上続いているのが、オリンピックという1つのスポーツを通じた祝祭です。
あちこちで、テロがあったり、紛争があったりしています。僕も本当は、招致のときに一番気になっていたのは、イスラム国のテロなんですよ。そういうものがいつも気になっているんです。あちこち、あります。いまでもミャンマーで、あんな銃撃戦があるんだけど、いろいろなことが起きているなかでも、スポーツをやる。これがオリンピックという祭典なんですね。
そういうことで、日本の選手が活躍する。素直に喜ぶことが大事ですね。で、もちろん、敗れ去っていく人の背中を見ることも、スポーツの現実ですね。だから、そういうドラマですね。
しかも国民国家ということを前提に、やっぱり(われわれは)生きているんですね。それを再確認する。別に友達でも、親戚でも、出身校ではなくても、なんでこんなに喜べるのか...