●五輪への支持率の問題……人の意識は変わっていく
―― 皆さま、こんにちは。
猪瀬 こんにちは。
―― 今日は猪瀬直樹先生に、東京オリンピックについてお話をうかがいたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いします。
猪瀬 よろしく、どうも。
―― 東京オリンピック、一時期は、かなり反対が高まりまして、(2021年)5月の半ばくらいですと、『朝日新聞』の調査で、中止が43%、再延期が40%で、80%以上が反対だ、などという記事まで出されたりしました。猪瀬先生は、オリンピックの祝祭的な意味ですとか、もともと、なぜオリンピックをやらなければいけないのか、ということについて、ずっと発言をされてこられたと思うのですけれども、そこをあらためてお話をうかがってもよろしいでしょうか。
猪瀬 「オリンピックをやりたい人が2割しかいなかった」といいますが、実は、1964年の東京オリンピックは、2年くらい前の段階で、「東京でやりたい」という人が1割か2割なんです。あとは、「そんなのあるの?」「なんで、そんなのやるの?」「われわれの生活のほうが、大事じゃないの」というような言い方をしていたのが、実は1964年なんですね。
その後、もちろん盛り上げていって、ギリギリ直前になったら急に少し盛り上がってきて、始まったら「東京オリンピック万歳」になるんですね。
だから、人の意識というのは(変わるわけです)。もちろんいま、コロナがあります。いろいろな不安があるわけですね。だけれども、そういうなかで、たとえばこのあいだ、100メートルの山縣亮太選手が9秒95を出しましたよね。1カ月前くらいかなあ。そうしたらね、NHKの夜7時のニュースのトップニュースが「山縣亮太9秒95」なんだよね。政局もコロナも吹っ飛んでしまうわけ。そういうふうに、意識が変わるんですね。
―― やっぱり、勇気づけられるものがありますよね。
猪瀬 というか、だから何か、オリンピックがもつ「ポテンシャル」というのがあるんですね。
それで、意識は変わるということですが、これはたとえば2012年に、ロンドンオリンピックがあったときの支持率なんですね(資料:招致委員会による国民支持率調査結果の推移)。
オリンピックが始まる2カ月前、日本人のオリンピックに対する期待度は47%だった。始まったら、66%~67%くらいに増えるんですね。だから20%上がった。つまり3分の2が、オリンピックはよかったというふうになる。
その後、東京2020の招致活動を2013年1月から始めましたら73%になった。そして2013年9月8日の少し前、8月にオリンピックの支持率調査をしたら90%を超えました。
ですから、盛り上がっていくと、どんどんそうなります。今回も、コロナの心配はあります。しかし始まって、誰かが金メダルを取ったり、(水泳の)池江璃花子選手が頑張ったり、体操の内村航平君が頑張ったりすると、グッと上がってきますね。
たとえば、いま大谷翔平選手が(大リーグで)ホームランを打つと嬉しい。しかし、僕は大谷選手と、出身校は関係ないし、親戚でもない。それはやはり、「国民国家としての日本人」という1つのまとまり=単位があるんですね。それが嬉しいと思う感情ができあがるのは、非常に健全なことなのです。
これは排外主義とは別です。排外主義とナショナリズムを混同している人がいますが、健全なナショナリズムというものは、オリンピックという祭典で、すごい高いカロリーとして消費されて、それはある種の心の安定をもたらすものになる。このオリンピックが、4年に1回、100年続いている。第一次世界大戦と第二次世界大戦でストップした以外は、ずっと続いているのです。
●コロナ対策の「戦略性」を問う
猪瀬 この(2021年)夏のオリンピックは、コロナで大変だといいます。しかし、コロナは大変ですし、感染症は大変なのですが、ここでわれわれが「なんでやめるのか」ということになると、「それは、ちょっと違うでしょう」となる。実はヨーロッパの国々や、アメリカの国々のほうが、いまだに(日本より)感染者数が多いのですね。外から見たら、(日本は)「やめる」というところまでいく数字ではない。
病床数が足りないとか、いろいろいいますが、病床数の配置が悪いだけ。医者の数と看護師さんの数は足りているんですよね。逼迫(ひっぱく)しているところで働いている人は大変なのですが、それはわが方の段取りが悪いだけだということになりますからね。
―― 東京大学の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師のお話によると、実は、10万人規模で海外から選手の方々や関係者の方々がいらっしゃっても、それ自体は、そんなに大きな感染拡大要因にならないという……。
猪瀬 データ的には拡大要因にはなっていない。(自宅と会場の)直行、直帰は大事なんですけれど...