江戸とローマ~図書館と貸本屋
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
落書きの誤字脱字でわかる古代ローマ人のリテラシー
第2話へ進む
識字率の高さを誇った古代ローマ、その独特な教育方法とは
江戸とローマ~図書館と貸本屋(1)リテラシーの重要性
歴史と社会
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
現代人は読み書き能力を当然のものと考えているが、せいぜい100年前には日本にも読み書きのできない人がたくさんいた。リテラシーは教育が普及した現代の賜物なのである。しかし、前近代の世界の中で、江戸とローマは飛び抜けて識字率の高い都市だったといわれる。ここではその秘密を探っていく。(全5話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12分12秒
収録日:2021年6月16日
追加日:2022年6月26日
カテゴリー:
≪全文≫

●読み書き能力と「黙読」の新しさ


―― 皆様、こんにちは。

本村 こんにちは。

―― 本日は本村凌二先生の「江戸とローマ」講義として、今回は「読み書きの楽しみ」というテーマでお話をいただきたいと思っています。本村先生、どうぞよろしくお願いいたします。

 これまでの講義でも言及いただきましたが、江戸とローマに共通するものとして、読み書きの能力の高さがあるということでした。具体的に今ではどのくらいのイメージで語られているのでしょうか。

本村 読み書き能力は20世紀になって、多くの人が学校に通うのが当たり前になってからのものです。以来、読み書きができないのは一つの能力の欠如のように見なされてしまいます。しかし、つい100年ぐらい前までは、日本にも読み書きができない人はたくさんいたわけです。戦前のレベルですら本当にそうです。

 それから、読み書きというと、われわれは読む場合に黙読を当たり前だと思っています。ところが、黙読というのは極めて新しい習慣です。ヨーロッパの中世では、修道院をのぞいてみたお百姓が、何かを黙って見つめている学僧に出くわして、非常に不気味な思いをしています。おそらく写本を読んでいたのでしょうが、黙読というのがまったく想像できないものだったのです。読み書き能力を考えるときに、黙読を皆ができるのが非常に新しい現象だというのが一つあります。

 だいたい私の祖父がそうでした。彼は19世紀末に生まれた人で、尋常小学校を出ていたので、新聞は読めました。当時、おそらく尋常小学校四年生ぐらいまでが義務教育だったのでしょう。文字は読めるし、新聞を取って毎日読んでいるのですが、ブツブツ言いながら音読していました。彼にとっては、やはり音(声)に出さないと読めなかったのか、そういう光景を小学生の頃、私は目の当たりにしていました。


●リテラシーの重要性に気づいた現代人


本村 21世紀や20世紀後半のわれわれは、人は皆読み書きができて、しかも読む場合には黙読が当たり前のように思っているが、実はそうではない。そういうことを前提に考えると、やはり読み書きができるというのは人間の歴史の中で、「決定的な」というぐらい大きな役割を果たしています。

 ただ、それは個人個人では評価できるけれども、全体としてどれぐらいだったのかなどということは分かりませんでした。戦後の今のような社会...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
寛政の改革・学問吟味と現代の教育改革(1)学問吟味の導入と正統性の問題
松平定信のもう一つの功績「学問吟味」の画期性に注目
中島隆博
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
異民族の記述としては異例な『魏志倭人伝』と邪馬台国
渡邉義浩

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治