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ペリーが驚いた江戸時代の庶民の驚異的な好奇心と識字率

江戸とローマ~図書館と貸本屋(5)江戸のリテラシーと庶民の読み書き能力

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
江戸のリテラシーは、貸本屋の数とともに寺子屋でも測れる。江戸末期、俗説によると寺子屋への江戸市中の就学率は70~80パーセント。同時代のイギリスやフランスと比較すると驚異的な数字である。実際、来航したペリーは日本の庶民の高い好奇心に驚いたそうだが、世界有数の識字率の高さもあり、そうした点がその後、日本が近代化に成功した要因ではないだろうか。(全5話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:14
収録日:2021/06/16
追加日:2022/07/24
カテゴリー:
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≪全文≫

●外国の学者による比較研究で分かった日本人のリテラシーの高さ


―― 読み書きの楽しみが、江戸での楽しまれ方とローマでのそれでは微妙に異なっていたこと、朗読中心なのか実際に読むのかなどをお話しいただきました。まとめ的になりますが、「読み書きの楽しみ」について、江戸とローマがそれぞれに教えてくれる教訓は、どういうことになるでしょうか。

本村 もう50年ほど前に出た本ですが、R・P・ドーアという人の書いた『江戸時代の教育』というものがあります。また、二十数年前にはリチャード・ルビンジャーという人が『日本人のリテラシー』という本を書きました。

 もちろんこれらの底には、日本人研究者による精緻な研究があります。日本語を読む能力において日本人学者のほうが長けているのは当然ですから、ドーア氏やルビンジャー氏もその成果を用いています。私がここで外国の学者の成果を特に取り上げたいのは、彼らに比較史的な視点があるからです。

 日本人の学者はどうしても日本だけを見て、「このぐらいのリテラシーがあった」という形で述べますが、外国の学者には現代の英語圏やドイツ語圏と比較したり、あるいは古い時代にさかのぼって見ていく視点があります。ですから、私のように江戸とローマを(比較するのには、役に立つわけです)。

 ドーア氏やルビンジャー氏の主張は、日本の学者がやったことをそれなりに取り入れていますが、ドーア氏の指摘した江戸末期の識字率は一つの成果です。男性が43パ-セント、女性が15パ-セントぐらいあったということで、世界史的な規模で見ても非常に高いリテラシーでした。

 文字はいわゆる寺子屋で習っていたわけですが、当時の人にとって「こや」はイメージがよくないので、寺子屋とは呼ばず「手習い所」と呼んでいたらしいのです。ドーア氏もそれらに気づいていなかったわけではないですが、この部分がかなり一人歩きするようになり、「日本人のリテラシーは非常に高かった」と言われるようになりました。


●江戸のリテラシーの高さは世界でも驚異的


本村 ところが、ルビンジャー氏は一世代後の学者です。また、その間に日本人研究者の研究も進んでいきました。当然のことのようですが、地域や男女間で差があることが明らかになり、いろいろな地域で見ていくと一概に(当時の識字率が)「男性が43パ-セント、女性が15パ-セント」とは言え...
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