江戸とローマ~図書館と貸本屋
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落書きの誤字脱字でわかる古代ローマ人のリテラシー
江戸とローマ~図書館と貸本屋(2)識字率と落書き
本村凌二(東京大学名誉教授/文学博士)
古代ローマでは、貴族階級は家庭教師や父親から、一般の庶民は街に集まってそれぞれ文字を学んだ。公務員や兵士になるためにはそれが必要だからだ。特にアルファベットは20数文字と覚えやすく、非常に使い勝手のよいツールであったことが、残された落書きからも見て取れる。当時のそうした状況から、識字率はかなり高いものがあったと考えられる。(全5話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11分55秒
収録日:2021年6月16日
追加日:2022年7月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローマ人が文字を学んだ動機


―― 前回は、ローマでも街の四つ角で文字を教える塾のようなものがあったというお話でした。江戸もそうですが、例えば庶民の階層はなぜそういうものを子どもに受けさせたのか。そういう素養を持っていると、一つは立身出世につながる。あるいはそれこそ俳句や狂歌、川柳などのエンタテインメントも、そういうものがないと楽しめない。そのようにいろいろな動機があると思うのですが、ローマにおいて文字を学ぼうという動機は何が支えていたと思われますか。

本村 他の時代に比べて、一つはアルファベットというのが非常に分かりやすくて、20数文字を覚えればいいわけです。逆にいえば、日本のように漢字があったりするのになぜ識字率が高いかというのは、また別の問題になってきます。

 これは、多分ヨーロッパ各地の国民にとって(今でもその差はあるでしょうが)、言葉は音だと思います。

 当たり前のことですが、人間は最初から文字を書けるわけではないし、読めるわけでもない。本来言葉というのは音であるはずです。だから、音である言葉で相手に対して自分の気持ちをきちんと伝え、相手の言っていることを正しく理解する。これはヨーロッパあるいはアルファベット圏のどこにおいてもあり得ることです。

 ローマの場合は広い地域を征服して、長い間にいろいろな人が集まってきたので、その中での立身出世はもちろんあります。非ローマ人、すなわちラテン語ができないローマ居住者の場合、ラテン語を学ぶことはありました。

 しかし、いわゆるローマ人、音としてのラテン語は分かっている人々が文字に書き留める方法を学ぶのは、立身出世というほどではなくても、安定した職業つまり公務員になる、さらに、それは兵士になるためにも非常に重要でした。

 兵士として集まってくるのは必ずしもラテン語のネイティブスピーカーだけではなく、いろいろな人がいますから、どこかで筆談が必要な場面が出てきます。いろいろな国民やいろいろな言語を話す人間がいる中で、ローマ人はいわば必要に迫られてそういう読み書き能力が少し他よりも高まるという潜在的なものがあったのではないかと思います。


●古代ローマでは男性の50パーセント以上が読み書きできた


―― それでは、実際にどのぐらい識字率が高かったかというところですが、データとしてはどういうものでしょうか。
...

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