第一次世界大戦から100年にあたって
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スエズ運河とアラビア湾が挟む中東の地政学的意味が大変化
第一次世界大戦から100年にあたって(2)帝国崩壊の余波と中東の役割
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
第一次世界大戦から100年、中東から黒海に至る地域で国際秩序を揺るがす事件が絶え間なく続いている。これまで第一次世界大戦に関する考察は、ヨーロッパの中心性を自明の前提とし、中東の事象は脇に追いやられる傾向があった。この考察は、驚くほど洞察力に欠けると山内昌之氏は指摘する。果たして、その理由は?  第一次世界大戦を機にヨーロッパと中東が外交、国際秩序という観点からどう変化していったのか、山内氏が解説する。(全4話中第2話目)
時間:14分47秒
収録日:2014年11月5日
追加日:2014年12月29日
カテゴリー:
≪全文≫

●中東から黒海に至る地域で国際秩序を揺るがす事件が絶え間ないのは帝国崩壊の余波


 さて、結局のところ、第一次世界大戦から100年が経っても、中東から黒海に至る地域で国際秩序を揺るがす事件が絶え間ないのは、歴史的に多民族国家として形成された帝国崩壊の余波がまだ消えていないからです。

 これに関係することは、以前にもお話したこともありますが、もう一度整理するとすれば、そのリストには、ホーエンツォレルン朝のドイツ帝国、ハプスブルク朝のオーストリア・ハンガリー帝国、ロマノフ朝のロシア帝国、そして、オスマン朝のトルコ帝国がありました。さらに、これらに加えて、大戦勃発の直前に解体した清朝の中華帝国を追加することもできます。


●大戦後、中東は地政学的な位置と天然資源の存在として重要な役割を担う


 これまで第一次世界大戦に関する考察は、それがしばしば「欧州大戦」と通称されてきたように、ヨーロッパの中心性を自明の前提として考えるきらいがありました。例えば、オスマン帝国の解体とアラブの反乱といった中東の事象は、脇役に追いやられる傾向がありました。大戦当時にエジプト派遣軍の司令官であったアーチボルド・マレー将軍は、中東の戦線を“sideshow of sideshows”と呼びました。つまり、「主役ではなく脇役」、あるいは、「主なる舞台ではない脇の舞台」、さらに、「脇の舞台の中のまた脇の舞台」というほどのニュアンスです。

 これは、その後の中東が果たす役割について、驚くほど洞察力を欠いていた発言と言わなければなりません。中東は、地中海とインド、ひいては、アジアをつなげる地政学的な位置と、石油天然ガス資源の存在によって、第一次世界大戦の前後にすでに進行していた地球規模の経済的相互依存でも、重要な役割を担うことが運命づけられていました。

 しかも、第一次世界大戦のインパクトは、むしろアメリカのウィルソン大統領による民族自決主義、すなわち、ウィルソン主義や、ソビエト・ロシアのボリシェヴィズムといった非ヨーロッパ世界の生み出したイデオロギーの強烈さにありました。それらの中心にあったのは、民族自決権と主権の独立、あるいは、主権独立国家や自治国家を承認する原理でした。

 この新たなダイナミズムは、近代ヨーロッパ各国の外交と国際秩序観に、大きな修正と転換を余儀なくさせました。イギリス、フランス、ドイツ...

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