●安倍総理が選挙を急いだ「三つの理由」
今回、僕は9月の末に日本に来ましたので、かれこれ3カ月になりますが、来日した時、年内に解散があるとは夢にも思わなかったし、あり得ないと思っていました。しかし、いま振り返ってみると、なるほど、ああ、こういうことで安倍晋三総理は選挙をすることに決めたのだなと分かります。ただ、今になってみれば分かることですが、全くのサプライズでした。
しかし、やはり、いつかは選挙をしなければなりません。では、いつできるか。年内にするか、来年の自民党総裁選挙の直前にするか、あるいは、2016年夏の参議院任期満了に合わせて衆参同日選挙にするか、というところです。そうだとすると早い方がいいというのは、おそらく三つの理由があったと思います。
一つは、野党、特に民主党の選挙準備が全くできていなかった。ですから結局、295の小選挙区で、178人しか候補を擁立できませんでした。僕は、ますます民主党に対して批判したい気持ちが強まっています。それは、前回の選挙が終わってもう2年も経っているのに、国民にきちんと謝ってもいないことです。あんなに大きな期待があったにもかかわらず、政権運営が全然駄目だった。そして、選挙でぼろ負けをした。なぜ負けたのか、どこが悪かったのか、今度政権をとるチャンスがあったら、何をどう違うやり方でするのか。そういったことを、まず自分で反省しない。そして国民に謝罪して、民主党はこれからこのように生まれ変わるということを一切言わない。それで、まだ選挙にならないから、別に準備をしなくてもいい。こういう政党はいけない。無責任という言葉では足りないぐらい、問題が多い政党だと僕は思います。
民主主義とは、民主主義政治とは、やはり与党も野党もないと駄目なのです。与党ばかりの民主主義はないのです。ただ、今の日本はそういう危険があります。
安倍総理が、野党が全く準備不足な今、選挙をやってしまう方が得策だと考えるのは、その通りだと思います。
二つ目は、「来年のことを言うと鬼が笑う」と言いますが、2015年の経済が本当に良くなるのか、もっと悪くなるのか、分からない。また、集団的自衛権、原発再稼働など、いろいろなコントロバーシャル(物議を醸している)というか、国民の意見が割れている問題を取り上げなければなりません。ですから、その前に選挙をやってしまったら、支持率が下がっても選挙をしないで済むということです。
三つ目、もう一つの大きな理由は、消費増税の先送り問題です。安倍総理は、10パーセントへの消費増税を先送りにすることは、おそらくかなり前に腹を決めたと思います。というのも、5パーセントから8パーセントに上げた時にも、非常に迷っていたことは間違いないからです。
その時は、日銀の黒田東彦総裁や財務省が、「絶対に大丈夫。橋本龍太郎元総理のようなことにはならないし、大きなダメージはない。成長率のマイナスはせいぜい3パーセントぐらいだろう」と言いました。しかし、結局、安倍総理が心配した通りになり、成長率はマイナス7パーセントになりました。おそらくその時から安倍総理は、よほど日本の経済がよくならない限り、年末までにもう一度上げるのはやはり無理だと思っていたと思うのです。
●真の理由は、自民党内の増税延期反対派封じ
しかし、消費税を上げないからといって、それで選挙をする必要は全くないわけです。というのは、野党が全部上げるべきだと言ってこそ争点になりますが、皆が上げない方がいいと言う以上、争点にならないのです。ですから、この選挙は、本当に何の争点もない選挙だったのでした。
ただ、消費税を上げなければ、野党には批判されないけれども、自民党の中では違ったでしょう。おそらく、自民党の議員、代議士の半分以上は、予定通り増税する方がいいと考えていました。いや、半分以上であったかどうかまでは分かりません。ですが、有力者の間には、上げるべきだという意見が結構ありました。もしも、先延ばしをして選挙をしなかったら、安倍批判は非常に強まったと思います。
こうした批判は自民党の中から出てくる批判です。しかし、選挙をするとなると、自党の総裁、総理を批判していては自分の選挙活動ができません。ですから、皆、黙って選挙に出たでしょう。それで勝ってしまった。勝ってしまった安倍総理が、消費税を上げなかったのが悪かったとはとても言えませんから、今は皆、黙っています。
ですから、安倍総理にとっては、この選挙は、政策と関係なく、極めて政局のための選挙であったのです。安倍総理は政局がらみの選挙で非常に得をしたと僕は思っているのです。
●この選挙結果は、野党に対する「不信任」だ
結果、野党は全然駄目でした。民主党は、議席...