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今ある技術で日本は十分に「資源自給国家」になれる

再生可能エネルギー大国・日本への道(2)今の技術で実現可能

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
再生エネルギーで十分な量の電力が確保できることは分かった。安定性の担保という問題に対しても、新旧の電池で十分に対応可能である。今の技術で、日本は「資源自給大国」に十分なれるのである。残るは、規制緩和や投資による実行の段階である。カーボンニュートラルな2050年に向けて拍車をかけるのは今なのだ。(全2話中第2話)
時間:08:07
収録日:2022/12/08
追加日:2023/01/01
≪全文≫

●「ペロブスカイト」太陽電池で日本の都市はエネルギー自立できる


 ここまでは、シリコンを使った今までの太陽電池の話でしたが、最近「ペロブスカイト」という新しい太陽電池ができようとしています。この特徴は、軽くて非常に安いことです。化学的な溶液を塗る形でも作れ、非常に薄いものですから、軽くて安い。

 これは日本の発明で、今のところ日本が進んでいるのではないかと思います。すでに生産が始まっていて、これを壁にペタペタ貼ればいいわけです。

 都市における住宅事情を考えると、一軒家では屋根に太陽電池を置けばほぼエネルギー的な自立ができます。しかし、ビルやマンションは屋根が相対的に小さいのが問題でした。しかし、これを壁に貼れば十分自立ができるわけです。

 家とビルがエネルギー的に自給できるということは、都市は自給できるということです。そうなると、前回申し上げた畑や田んぼのようなところでの発電は、工業用に使えばいいということになります。以上が量の面からいった太陽電池です。

 さらに、風力には太陽電池以上のポテンシャルがありますが、太陽電池だけで今の発電量の2倍少々がまかなえることになります。太陽電池と風力に、地熱、水力、バイオマスが加わってくる。これらは太陽電池や風力ほど大きくはないものの、ある程度のポテンシャルを持っていますから、結局再生エネルギーだけで、量的に5倍以上のエネルギーを得ることができます。


●「今の技術でできる」――不安定性の克服と鉛蓄電池の活用


 ですから、後は「不安定性」という問題を克服できるかどうかということになります。太陽光と風力の場合、太陽は夜発電できないし、風が凪いでいるときには風力発電はできないということですが、電池というものがもう非常に安くなっています。

 実をいうと、リチウムイオン電池はもう国際的に十分実用するだけの低コストになっています。高いのは日本だけで、国際価格の5倍から10倍ぐらい高くなっている。この問題は結局、規制です。

 行政は、エネルギーに関して規制の改革をしなくてはいけない。これが極めて重要で、このことをわれわれ市民が声を大にして叫ばないといけない。これが私は非常に重要だろうと思います。デモクラシーですから、市民が黙っていて政治がよくなるはずはない。

 それから、ほとんど知られていないことがあります。今申し上げたのはリチウムイオン電池という最先端の電池のことですが、その他に「鉛蓄電池」というものがあります。これはガソリン自動車のいわゆるバッテリーとして使われています。実は、これは重いというだけで、価格やライフサイクルにおける二酸化炭素排出量はリチウムイオン電池よりずっと少ないのです。

 EVに乗せるには鉛蓄電池は無理だけれども、例えば風力発電所やメガソーラーといったものの電力の安定性のための電池としては、鉛蓄電池を使えばいいのです。つまり、これ(鉛蓄電池)を置くことによって、安定性は確保できる。しかも、今の技術でできるのです。もちろん電池の技術というのはこの後もどんどんよくなっていきます。そうすると、今までよりもやりやすくなるということはあるけれども、今の技術でできるということが大事なのです。

 再生可能エネルギーやカーボンニュートラルというと、すぐ「技術開発が必要ですね」という話になりますが、あれは間違いです。今の技術ですでにできるということが第一で、技術開発はそれをさらに容易にするために行うのです。 ここを間違ってはいけません。


●21世紀は大きな転換期、常識も変わる


 電池というのは、1日なり1週間なりの変動のような、短い単位での不安定性に対する対策ですが、もっと長期の対策があります。「真夏の暑いときに(電力が)足りない」とか「真冬の暖房が足りない」というようなときには水素です。再生可能エネルギーで水を電気分解するわけです。

 水素、あるいはアンモニアでも構いません。水素とアンモニアはほとんど等価ですから、水素さえあればアンモニアを作るのは簡単です。水素・アンモニアで、火力発電の石油やガスの代わりにタービンを回す。これは技術的にできる目処がもう立っています。

 そういうことで、再生可能エネルギーの問題に関して技術的・経済的な問題はもうすでに解決済みです。規制緩和や投資や実行ということに舵を切らなければなりません。

 そのためには、政府は規制改革、個人は屋根や畑のようなところに太陽電池を置くこと。それから企業は、今この再生可能エネルギーに関してたくさん新しいビジネスが生まれますから、勇気を持ってそこに投資をしてつくっていくというのが、企業の役割だと思います。

 最後に申し上げたいのは、今日私が申し上げたようなことが、日本では決して常識になっていないことです...
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