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「食乱れて、民族滅ぶ」今こそ和食に注目すべきわけ

和食の深い秘密~なぜ身体に良いのか(4)日本の遺産を守れ

小泉武夫
農学博士
情報・テキスト
発酵食による免疫増進という素晴らしい伝統を持ってきた日本人は、納豆汁のようなすぐれたスタミナ食を生み出し、日本酒を伝えてきた。しかし、ここ数十年で激増した肉食の脅威は、世界遺産たる和食の牙城を揺さぶっている。小泉氏が憂える「食乱れて、民族滅ぶ」事態を避けるにはどうすればいいのか。(全7話中第4話:2023年1月24日開催ウェビナー〈和食の深い秘密~なぜ身体に良いのか〉より)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:09
収録日:2023/01/24
追加日:2023/04/29
タグ:
≪全文≫

●江戸の中山道に潜んでいたとんでもないスタミナ食


小泉 今日はみなさんに、とてもいい話をします。今までもいい話でしたが、ここから、また、いい話になる。それは何かというと、私が2016年に出した『江戸の健康食』(河出書房新社)という本のなかで、書いたことです。この話には、みんなが驚きました。

 江戸から京に出るためには、南回りと北回り、二つのコースがあります。南回りのコースは、日本橋から出て、品川、横浜、箱根を通る東海道五十三次。これが南回りのコースです。北回りというのもあります。日本橋から板橋の成増に出て、真っすぐ北に上って上州に出る。そこから西に行くと信州に入り、浅間山の下を通って軽井沢あたりを通り、塩尻というところから南に下りていく。

 そうすると、木曽福島に出ますが、ここからが大変なアップダウンです。妻籠、中津川、恵那、落合宿のあたりがとくにすごいです。東海道五十三次といいますが、これは北回りの中山道です。

 私の調べたところ、この中山道には和食でありながらとんでもないスタミナ食があったのです。しかも発酵食品をからめてです。

 女子栄養大学という素晴らしい大学が『食品成分表』という正確な分析に基づく立派な本を出しています。そこを見ていると、和牛のタンパク質は17~18パーセント、大豆のタンパク質は16~17パーセントと、ほぼ同じなのです。

 私が小さいとき、祖母は私を「ター坊」と呼んでいました。そして、「ター坊や、豆腐を食え、豆腐を。そうすると、肉、食っていると同じだぞ。豆腐は畑の牛肉なんだから。だから豆腐をつくる大豆は牛肉だよ」と言われていたのですが、その通りだということが分かります。


●味噌+豆腐+納豆+油揚げのパワー


小泉 さて、驚いたことに、中山道に行ったところ、すごいものを見つけたのです。中山道の旅籠(料理屋)には、旅人に食べさせるスタミナ食が共通してありました。何かというと、これです。味噌汁に豆腐を加えて、豆腐の味噌汁をつくり、納豆を叩いて挽き割りしたのを入れて、その上に油揚げを千切りして加えるわけです。

 いいですか? 豆腐の味噌汁に納豆と油揚げを加えるわけです。そこで、これを見てください。大豆は肉と考えればいい。味噌は大豆でつくるのだから、味噌は肉でしょう。そうすると、何にも入れない味噌汁は肉汁です。この肉汁に3種類の肉を入れていくわけです。肉汁に肉を入れて、また肉を入れて、またまた肉を入れているということです。つまり、味噌汁のなかには4種類の肉が入っているわけで、スタミナ食なのがお分かりいただけるでしょう。

 これは現代でつくれと言われてもつくれないです。だって、味噌汁の中に豚肉、鶏肉、牛肉を入れる? 後はイノシシかシカでも獲ってくるか、ということになってしまうわけです。だから、これは本当にすごいスタミナ食だということになります。

 鹿児島大学の知り合いで栄養学の先生に、これを計算してもらいました。これを朝と夜、1日2杯飲んだら、現代人が肉から摂取する有効タンパク質より高くなるということでした。また、もしこれを豚肉と牛肉と鶏肉とシカでもいいから肉でつくって毎日2杯ずつ食べたら、10日間のうちにコレステロールが天井まで行ってしまう。(肉でつくれば)これほど不健康なものはない、(大豆でつくれば)これほど健康なものはない、ということです。

 日本人というのは、このようにして、和食のなかからいろいろなことを考えていく民族なのです。ですから、日本という国は、世界的に見てもやはり非常に秀でた食の世界を持っている民族であると言えるわけです。


●返還前の沖縄を席巻していた「すごい」缶詰


小泉 日本が素晴らしい食を持っているというお話をしてきましたが、最近ではそれがどんどん変わってきました。冒頭でもお話ししたように、日本人がどんどん変わってきたことの一つとして、肉ばかりを食べるようになったということがあります。今や沖縄では、その現象が平均寿命にも現れてきたこともお話ししましたが、これは沖縄だけの問題ではなく、われわれ自身の問題です。

 実は、沖縄には、すごい食べ物が一つあります。私は沖縄の琉球大学に行って、子どもたちや学生たちに話をしてきましたが、沖縄では特別の缶詰を食べています。

 私が初めて沖縄に行ったのは昭和45(1970)年で、沖縄がアメリカから日本に返還されたのは昭和47(1972)年、佐藤栄作という総理大臣がいたときでした。ですから私は返還される前のアメリカ合衆国沖縄特別州へ、パスポートを持って行ったわけです。

 当時私は26~27歳でした。そんな青二才がなぜ行ったかというと、ついていた事情がありました。私の教授だった鈴木明...
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