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上杉鷹山やド・ゴール元大統領に学ぶ、食料自給率を上げる方法

和食の深い秘密~なぜ身体に良いのか(7)自給率確保への道

小泉武夫
農学博士/食文化評論者/東京農業大学名誉教授
情報・テキスト
質疑応答の掉尾としての「自給率確保のために日本が力を入れるべき食材は?」の質問が、小泉氏の尊敬するド・ゴール、上杉鷹山、そして矢羽田正豪氏の業績へとつながった。答えは「農家が潤う農業」をすれば、自給率問題は解消できるということだ。ラストの一問は「芋焼酎に合う最高の和食」である。(全7話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:24
収録日:2023/01/24
追加日:2023/05/20
タグ:
≪全文≫

●自給率確保のために日本が力を入れるべき食材は?


―― まだ少し時間がありますので、質問にまいりたいと思いますが、今度は日本の自給率のお話が来ています。「現在、日本の自給率は残念ながら低い状況である。この和食というものを維持していくため、安定的な確保のためには、日本はどの食材に力を入れたらいいのか。そして、自給率を向上させるべきだと先生がお考えになる食材は、何でしょうか」ということです。

小泉 はい、分かりました。日本の自給率は今、カロリーベースと生産ベースがあって、カロリーベースで38パーセントぐらい、生産ベースだと62パーセントぐらいです。

 私は国の全国地産地消推進協議会の会長をずっと今までやってきたので、その辺はよく分かるのですが、日本で自給率100パーセントの食べ物は何かというと、コメです。コメはもう100パーセントです。だから、コメを食べることが一番いいのです。

 ウクライナとロシアが戦争をして、世界的に小麦が少なくなってきたけれども、一番おいしいのは「GOPAN」というものです。「GOPAN」というコメでパンをつくる機械が街でも売っていますが、非常においしいです。そうやってコメの自給率を高めれば、(もともと)日本人は主食がコメなのだから、自給率が高まるのは当然です。

 今一つ、やはり自分たちでつくるということが自給率に直接関係するわけだから、輸入できないものは何なのか。たとえば野菜類です。それから日本は非常に果物が多く、バナナやパイナップルは外国からくるけれど、国産ではリンゴやミカンなど、いろいろなものがある。そのようなリンゴやミカンのようなものは、食べるだけではなく、加工してどんどん食卓に載せる。そういうことも非常に重要だと思います。

 それから魚です。日本の周りは全部海ですから、魚はいっぱい獲れます。一番獲れる魚は何かというと、イワシで、イワシは大量に捕れます。サバも最近、よく獲れます。サンマはあまり獲れませんが、イワシとサバというのは非常に栄養があるだけではなく、おいしいし、よく獲れるために安価です。ですから、そのイワシを上手に食べる。サバを上手に食べる。このようにしながら、水産物の自給率を高めていくことも大切だと思います。


●小泉武夫が尊敬する3人の人物とは?


小泉 阿川佐和子さんが『週刊文春』で連載している「この人に会いたい」で私と対談しています(2023年1月27日発売)。そのなかで、自給率に関連して、私が今まで生きてきて尊敬する人間は何人いるかという話が、対談に出てきます。

 3人いるのですが、一人目はフランスの第四共和国をつくったド・ゴールです。二人目は、今から270年前にすぐれた政治を行った上杉鷹山です。三人目は、今生きている矢羽田正豪(やはたせいごう)という男だということを、その対談でお話ししています。

 ド・ゴールが大統領になる前は、フランスの食料自給率は78パーセントでした。彼が大統領になって、辞めるときには128パーセントでした。ド・ゴールは、「自国の食料を外国に頼る国家や民族は、独立国家とはいわない」という思い切ったことを言ったわけです。

 ド・ゴールがどうやって食料自給率を上げたかというと、たとえば日本にも山梨県や熊本県という区分があるように、フランスにもジロンド県のような県がある。その単位ごとに生産量を決めるのです。

 たとえば、ある県で年間にどのぐらいタマネギを食べるのかを調べると、データが出てきます。ニンニクやキャベツなど、なんでもそうです。それをもとに、農家に対して「タマネギ農家は、これだけ。ニンニク農家は、これだけ。キャベツ農家は、これだけつくれ」と指示して、それをすべて食べてしまいます。しかも、農産物を県の外へは出さない。そうすると、その県はすべてが100%です。それを全地域でやると、すべて100%になっていく。そういうようなことをやりました。だから、日本もそうすればいいのですが、それが一つです。


●上杉鷹山の始めた財政再建は、現代にも役立っている


小泉 それから、上杉鷹山というのは、すごい人です。270年前の殿さまなのに、自給率を上げるだけではなく、現代に続く農家を豊かにする取り組みをしています。

 彼がまず行なったのは、江戸から学者を呼んで、「米沢というのは『米の沢』というぐらいだが、何の農業をやったらいいか」と聞くことでした。

 「それは殿様、絶対に牛を飼うべきです」と答えがあったので、その通りに牛を飼いました。すると、牛は糞尿をします。それを発酵させて堆肥にして撒くと、非常にすぐれたコメが獲れたわけです。一反歩あたりをほかの藩と比べると、驚くほど違う。コメがいっぱい獲れるので牛を大切にしたら、それが今や「米沢牛」というブランドになったのです。

 米沢の町の中には最...
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