ニッポンの食文化が危ない
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「食の冒険家」の目に映った日本の食文化の実態
ニッポンの食文化が危ない(1)和食の崩壊は民族の崩壊
芸術と文化
小泉武夫(農学博士/食文化評論者/東京農業大学名誉教授)
和食の世界遺産登録に日本中が沸いたのは、もう一昨年の暮れ。三度の食事が「文化遺産」に値すると認められるのは日本人のプライドをくすぐる一方、「カレーやラーメンは和食か?」の疑問も飛び交ったことは記憶に新しい。和食の真の意味を解き明かすのは、食文化評論家で農学博士の小泉武夫氏。「食の冒険家」とも呼ばれる小泉氏の目に映ったニッポンの食文化の実態とは?(全3話中第1話目)
時間:10分15秒
収録日:2015年8月31日
追加日:2015年10月1日
≪全文≫

●72歳の私が元気な理由は和食にあり


 皆さん、こんにちは。私は食文化論家で、今ひとつ発酵学と両方をやっている小泉武夫と申します。

 多くの人は、日本経済新聞の「食あれば楽あり」という連載をご存じでしょう。もう23年続いていますが、その間私は1回も休載がありません。ずいぶん長くしてきたものだと思っております。

 なぜいきなりこんなことを言ったかというと、私はもう72歳ですが、これほど若い。その理由はなにか、とみんなに聞かれるのです。それは、やはり食生活なのですね。特に私の場合は、小さいときから和食以外は食べさせられないような家で育ったのです。

 親父、私の父が言った言葉の中で非常によく覚えていて、生涯続けて実践しているのが、「日本人になりきれ」という言葉でした。私の親父は、第二次世界大戦では陸軍の両角部隊の中でも相当えらい隊長でして、戦争が終わって帰ってきてから私を厳しく育てました。その親父が言ったのが「日本人になりきれ」。

 どういうことを言っているのだろうと考えましたが、日本人になりきれということは、まず食生活から日本人になれというのだろうと思い、私はそれからずっと日本人が昔から食べてきた「和食」という文化を踏襲して、ここまできたのです。この72年間、大きな病気もしないで、今でも本当に現役バリバリです。座ったままで硬式ボールをセカンドに投げられるぐらい、元気な私なのです。


●和食が世界遺産に登録された本当の理由は?


 一昨年(2013年)の12月に、和食が世界遺産(ユネスコ無形文化遺産)に登録されました。そこで世界遺産について少しお話ししておきますが、和食が世界遺産になったのは、日本人が素晴らしい文化として「和食」をつくったことに対する顕彰の意味ではないのです。そうではなく、世界遺産は「保護遺産」なのです。

 日本人はこれほど立派な素晴らしい和食の世界をつくってきたのに、今はどんどん洋食化されているではないか、と。このままずっといったら、この国からは和食が消え、みんなもう朝から夜までパンを食べ、肉を食べるような民族になるのではないか、と。それではかわいそうだし、文化的に問題があるから、民族の文化としてユネスコが守ってやろうといって、世界遺産というものをつくっているわけです。

 今の日本人の間では和食と洋食の比率がどのぐらいで分かれてい...

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