●日本人は食べ物を作らなくなってしまった
皆さん、こんにちは。小泉武夫です。私は、食文化論をいろいろやっていまして、それから発酵学をやっています。それで、今本当に心配しているのは、日本人が食べ物を作らなくなったことです。
食料自給率は今どのぐらいか。なんとカロリーベースで39パーセントから40パーセントを行き来しているのです。つまり、食べ物はこんなになくなってしまった。逆にいえば、食べ物を作らなくなってしまったということです。
日本人の食べ物の6割が外国から入ってきている。これは怖いことなのですよ。食べ物は命の綱ですから、1回途切れたらおしまいです。これは、非常に深刻な事態としてもっと考えなければいけません。例えば今、日本に農作物をたくさん売ってくれるのは、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどのいろいろな国です。しかし、そういう国がこれからずっといつまでも食料を日本に供給してくれるかについては、なかなか難しいこともあるのです。
それはなぜかというと、今世界的に異常気象が起こっているからです。ものすごいハリケーンや熱波、干ばつ、大雨などに見舞われ、日本にさまざまな食べ物を輸出している国自体の農産物生産量が低下し、自給率が下がっています。それを考えると、どうにかならないだろうかと思うわけです。
●高度成長下で衰退してしまった生命維持産業=農業
そして今ひとつ、実は日本では農業が崩壊しているという重要な問題があります。日本は先進工業国に「なれ、なれ、なれ」と非常に工業に力を入れたもので、置き去りにされたわけです。これが一番大きな問題です。
私が、農業を一番大切だというのはなぜかというと、農業こそ生命維持産業だからです。お医者さんではありません。お医者さんが人の命を助けるから生命維持産業を担っているのかというと、そうではない。そのお医者さんであっても、農家の作ったものを食べていかないと生きていけず、死んでしまいます。だから、農業こそが生命維持産業なのです。ところが日本ではそういう位置付けをせず、ひたすら高度成長でやってきたもので、農業が衰退してしまった。これが現状でしょう。それが、われわれの時代で終わればまだいいのでしょうが、次の子どもたちの時代にもこの状況を引きずって持っていくわけです。
ところが今、外国からどん...