●心にいい日本酒が、いま海外でも爆売れしている
―― これまでの小泉先生のお話を伺い、なぜ和食が身体にいいのかというのが、非常に合理的に腑に落ちました。また、お酒のところで、先生が少しおっしゃいました、心にいいというお話。心にいいというのは、とても大事ですね。
小泉 そうですね。心で飲むということがありますからね。
―― ええ。食事にしてもお酒にしても、単にいい物質が入った、悪い物質が入ったではなくて、心が豊かになれば、もう必然的にいいという。
小泉 よく言われることですが、心が豊かになって朗らかになると、免疫細胞が増える。よく笑う人、あるいは落語を聞くと免疫が急に高くなる。
―― なるほど。そう言われますね。
小泉 そういうことを言いますね。やはり心の問題もあるのだと思います。ですから、お酒も心で味わって、心で飲んでほしい。そうすると、本当にお酒の味も香りも分かります。一所懸命味わって飲むというか。
―― そうですよね。最近、とみに日本酒はおいしくなっていますからね。
小泉 そうですよ。私は今、国税庁の委員会で、日本の酒を海外に出すプロジェクトの座長をやっていますが、おかげさまで、コロナにより経済活動が停滞した現状のもと、海外で一番売れているのは日本酒なのです。
なぜ日本酒がそんなに売れているかというと、たとえば健康にいいということもあるでしょうが、一つ大きな点があります。最近大吟醸酒というのがあるのですが、これが非常にきれいな酒で、口に入れると何の差し障りもなく、コピリンコと入っていって、香りがフルーティで、素晴らしい。それの一番いい酒が、四合瓶で2500円~3000円なのです。ワインの一番いいものでは何十万円というものがあります。先日など、「これは1本、いくらですか」と聞いたら「270万円」だというので、目玉が飛び出しました。そういうのと比べると、日本酒はおいしくて、安くて、心にも良い。そういうものだと思います。
―― そうですね。ありがとうございます。
●発酵食嫌いは無理にでも治したほうがいいのか
―― それでは質疑応答の時間に入りたいと思います。
小泉 はい、どうぞ、どうぞ。
―― まず最初でございますけれども、「基本的な質問で恐縮です」と来ているものからまいりたいと思います。
小泉 結構です。
―― このご質問は、「自分は発酵食やお酒をおいしいと感じているのですが、一部には(たとえば子どもなど)苦手な人もいる。発酵食をおいしく感じない人は摂取しないほうがいいのかどうか」。これは今の「心」にも関わるかもしれませんね。「たとえおいしいと思わなくても、やはり摂取したほうがいいのか。それとも、「ちょっと受け付けませんという方は無理に摂らなくていいのか」。そのあたりは先生、いかがですか。
小泉 なるほど、なるほど。発酵食品には、先ほどお話しした特徴の4番目に書いてありますが、独特の味と香りがする。これは発酵ですから当然のことです。たとえば、「一番好き嫌いが多いのは何か」を調べてみますと、日本人の場合、納豆が結構多いです。納豆はなぜ嫌いかというと、あの匂いが嫌だという人と、ズルズル、ヌラヌラするのが嫌だという人がいます。
回答としては、別に必ず納豆や発酵食品を食べなくてはならないというわけではない。やはりこれも心の問題ですから、嫌いなもの・イヤなものを無理して食べる必要はまったくないと思います。ただ、食べ方を工夫するということはあると思うわけです。
たとえば納豆汁というのがあります。味噌汁の中に納豆を入れると、納豆の香りというよりも味噌汁の香りがフワ~ンと良くなって、大豆のいい匂いが出てくる。そういうようなものが良かったり、たとえば野沢菜を漬けた野沢菜漬けというのが信州にありますが、あれを細かく刻んで納豆と一緒にあわせてご飯にかけたら、納豆が嫌いな人でも、こんなにおいしいものかと言う。だから、食べ方次第なのではないかと思います。
●関西人は納豆を好まないという先入観にだまされるな
小泉 ただ、ここには先入観念というのがあります。たとえば今日もおそらくいると思いますが、関西の人。西の人は江戸時代には納豆をあまり食べなかったといいますが、これはまったく嘘です。江戸時代の関西で、納豆は非常によく食べられていました。それなのに、いつ、どこからか分からないけれど、関西の人はあまり納豆を好まないという先入観念ができ、「だから、自分も好きではない」ということはあるかもしれません。
たとえば「朝霜や室の揚屋の納豆汁」。これは、与謝蕪村の句です。「朝霜や室の揚屋の納豆汁」。これはどこかというと、「室(むろ)」というのは、今の兵庫県のたつのに近い室津というところです。与謝蕪村が俳句を歌い、絵を描きながら、兵庫県...