●ハマスの「戦略的な攻撃」とイスラエルの論理
皆さん、こんにちは。パレスチナのガザ地区において、たいへん痛ましく悲劇的な衝突が生じました。
パレスチナ自治区のガザを実効支配しているハマスが、イスラエル領内に、陸海空から分かれて非常に組織だった攻撃を行ないました。イスラエルへのロケット弾連射に加え、地上からは1500人以上とされるハマスの戦闘要員が領内に侵入したのです。折から、ガザに隣接していた地域で開かれていたイスラエルや外国からの若者たちが参加している祝祭(フェスティバル)を襲うことになりました。その一部については拉致・誘拐し、ガザ領内に引き立てていったとされています。
その後、イスラエル軍もまた反撃を試みて、その攻撃の一部についてイスラエルは明らかにすることになりましたが、現在のところ、イスラエルの国内で1000人以上が無差別に殺害され犠牲になったことへの報復を求める声が、イスラエル世論から出てきています。
特に、今いちばん懸念されるのは、イスラエルの陸海空の三方向、とりわけ地上軍が侵攻することによって、ガザの一般市民たちが巻き添えになることです。これによって、多くのパレスチナ人が老若男女を問わず犠牲になる、痛ましい事態が懸念されています。
基本的には現段階で、こうしたイスラエル軍の全面侵攻を防ぎとめていくための国際努力や、国際世論の圧力が必要ではないかと思います。
ここで普通の日本人なら、「ハマスが現在、拉致した人質をまず解放・返還することによって誠意を見せる。それによって国際世論がハマスの姿勢を評価して、イスラエル軍の全面侵攻を少しでも止めるような方向へと政治の流れが動いていかなければ」と考えるでしょう。しかし、その日本のような考え方は、ほとんど国際的に見て、とりわけ中東においては、残念ながらそのまま通るとはかぎりません。何よりイスラエルとしては、報復しないとネタニヤフ政権そのものが持たないと考える。それがイスラエルの国家であり、国民性なのです。
もっと限定的に申しますと、現在のネタニヤフ政権は、宗教右派による極右に近い保守派の連立政権です。彼らからすれば、イスラエル国家の殲滅や地上からの抹殺を高らかに唱えているハマスの存在そのものでさえ許されないはずなのに、そのハマスによって、イスラエルの市民が白昼、問答無用で拉致されたり、殺害されたりするということについて、黙って拱手傍観(こうしゅぼうかん)するわけにはいかないのです。それが、彼らの理屈なのです。
「人質の全面解放によって、誠意を見せよ」と私たち日本人であればいうわけですが、逆にいえば、何のためにハマスはイスラエルを攻撃し、このような無謀ともいえる行動に走ったのかという「そもそもの問題」について、深い考えをまとめていないように思われます。
ハマスは今回の攻撃を瞬間的、あるいは偶然的な営みとして行なったのではありません。よくよく考え抜かれ、そして色々な方面からの援助等を受けながら行なわれた、戦略的な攻撃であった点に注意しなければいけません。
●今回の軍事衝突への3つの視点
従って、ものの見方には三種類くらいあると思われます。
今回のガザの軍事衝突は、ハマスを「イスラム過激派の武装組織」と定義する人からすれば、「そのハマスによる、イスラエルというシオニスト(パレスチナにユダヤ人国家を人工的につくる)国家に対する一貫した武力抵抗」であり、そして「パレスチナ人の民族自決権を奪われてきた問題に対する武力による抵抗の一環だ」と評価する人たちも、国際的にはいなくもありません。そうした見方に対して、イスラエルの側からすれば「こうしたテロリストたちを掃討する戦になるであろう」という見立てが、今回の武装衝突の1つの見方になると思います。
2つ目の見方・考え方は、ハマスが、いわばイスラエルや欧米のいう「テロリスト」であるというものです。テロリストとしてイスラエル人・ユダヤ人を無差別に虐殺することを恬として恥じない組織であって、彼らがユダヤ人の生存権を逆に否定した。それに対して、ユダヤ人国家であるイスラエルが、自衛権(特に反テロ自衛権)を行使した。この見方のなかでは、「テロリスト」対「反テロリスト」(「テロリズム」対「反テロリズム」)という括りのなかで、当然、「反テロ」というのは世界も共有すべき命題であるということになります。こういう形でイスラエルは、反テロの自衛権を行使しているというものの見方が、2番目に考えられます。
3番目に考えられるのは、現実的に国際政治、中東政治をリアリティーを持ったかたちで(現在のわれわれが直面している小さな局面での打開策という、すぐれて政策的な動機を持ったかたちで)解釈するとすれば、衝突の発端と本質は、今回に...