●保利茂は「田中に老婆心あり」と感じて、田中を支持
田中の魅力を語る上で、「田中に老婆心あり」という保利茂さんの言葉をまず紹介したいと思います。
保利さんのその言葉を聞いたのは、村上正邦さんです。参議院のドンと言われた村上さんは、最近は安倍政治批判の急先鋒で、私もこの間、村上さんに呼ばれて、森田実さん、平野貞夫さん、菅原文太さんに私で、憲政記念館で安倍批判の大シンポジウムをやりました。
その村上さんが、「田中角栄という人は、世間では金権政治の権化みたいに思われているけれど、お金だけであれほど人の心をつかむことはないんですよ。お金だけで人は動かない。角さんは、金によって人間が左右されるなんていうことは一つも言っていないわけだよ。金を使ってきた人間だけど、金につかわれてきた人間ではない」と話し、続けて「角さんは、金を使って自分の理想を実現させようとした。しかし、今の政治家は、ただ人を金で釣っているだけでしょう。金の奴隷なんだ。安倍晋三さんだって、美しい日本の国と言うけど、ただ金をばらまいたって、日本の美しい心なんていうのは取り戻すことはできませんよ」と言うのです。これが、右派中の右派と言われた村上さんの最近の言葉です。
村上さんは、決して田中に近かった政治家ではなくて、中曽根さんの側近だったわけですね。今もそうです。
佐藤栄作内閣の長期政権の後に、田中角栄は福田赳夫と争って首相となるわけですけれども、先ほど申し上げた保利茂さんという人は佐藤の腹心であって、佐藤の意中の人が福田だということは当時明らかでした。そうでありながら、保利茂は、最後には田中を支持したのです。
ある人が、「あなたはどうして田中を推したのか」と保利さんに聞いたところ、保利さんは「福田に老婆心なし」と答えた。つまり、逆を言えば、「田中には老婆心がある」ということですね。
その話をしていたのは、道元の研究家の田中忠雄という人なのですけれども、政治に欠けてはならないのはこの老婆心というもので、「では、その老婆心とは何なのだ」と村上さんが田中忠雄さんに聞いたところ、「老婆心とは、寒い冬に孫がこたつでうたた寝している時に、風邪をひいてはいけないと、自分の着物を脱いでかけてやる心だ」と解説してくれたというわけです。自分は寒くなっても孫に、ということですね。