●「民族国家」としての覇権をめぐる「戦争」というドラマ
近代のドラマは、おそらく近代を特徴づける「民族国家」と「経済成長」という二つの側面で見ると分かりやすいと思います。
まず、民族国家という側面から見ると、この500年ほどの間に、ナンバー2の国がナンバー1の国にチャレンジしたことは15回ほどあったそうです。これは、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授による指摘ですが、その内の11回は戦争になってしまったということです。
私は、これをもう少し短く200年ぐらいに切って考えてみました。その結果、今は、グレアム・アリソン教授が指摘するよりももっと危険な状況にあると感じています。
200年前はナポレオン戦争です。1814年から15年にかけては、その処理のためのウィーン会議が開かれていました。100年前の1914年は、皆さんがよくご存じの第一次世界大戦が始まった年です。その後、あまり時を経ずして1939年からは第二次世界大戦です。両方とも、体制の異なるナンバー2がナンバー1にチャレンジした結果、起こったものです。その第二次世界大戦が終わると、また直ちに体制の違うナンバー2、当時はソ連ですが、それがナンバー1のアメリカにチャレンジして、冷戦が展開される状況になりました。
●冷戦を戦争にしなかった「MAD」と現在の米中関係
この中で、ナンバー1とナンバー2の間に直接戦争が起こらなかったのは、冷戦だけでした。ただし、この期間は非常に代理戦争が多かった時期です。朝鮮戦争やベトナム戦争をはじめ、その後も幾つもの代理戦争がありました。
アメリカとソ連が直接戦争をしなかった一番大きな理由は、核戦争の回避でした。お互いに丁々発止の核戦略のやりとりをしながらではありましたが、最終段階では「MAD(Mutual Assured Destruction.相互確証破壊戦略)」の合意が形成されました。
片方が相手を攻撃したとしても、必ず第二撃として相手側がこちらを反撃する能力は残ってしまう。そういう状況が展開されました。したがって、どちらも攻撃はできないという核戦略が米ソ間に形成されました。それが冷戦での核戦争回避の一番大きな理由だったわけです。
今また起こっているのは、体制の違う中国が新たなナンバー2として現れ、ナンバー1のアメリカにことごとくチャレンジするという状況です。しかも危険なのは、今の中国の核能力が、相互確証破壊戦略(MAD)が形成されるには程遠い低位にあることです。まだまだ中国はアメリカに比べると非常に弱い核能力しか持っていないのです。構造としては、米中間に戦争を起こさせないMADのような合意は形成されていません。そういう状況の下で、ナンバー2がナンバー1に果敢にチャレンジしているのですから、極めて危険な状況にあります。
●戦争を起こす三段階の状況と、防げる時点を考える
戦争というものは、だいたいにおいて「根本原因」「状況の悪化原因」、そして「問題の引き金(トリガー)」という三重の状況から考える必要があります。
今のところ、すでに根本原因が米中間に存在する明確な構図があります。これを「悪化させる原因」をどうやってつくらないようにするかが非常に大事です。悪化する方向は非常に簡単にできてしまいます。そちらへ向かうと、今度はトリガーを何とかして防がなければならない。
しかし、トリガーについて言えば、これまでの戦争で「合理的な計算づくで始まった戦争」はありません。必ず何らかの誤算から始まってしまいます。
そういうものですから、体制の異なるナンバー2がナンバー1にチャレンジするという今の構造は、極めて国際社会を不安定にする危険なものであり、このような状況がすでに展開してきていると思います。
●「経済成長」のドラマから見える「アジアの復興」
もう一つの近代のドラマの要素は、「経済成長」に関わるものです。この経済成長という側面は、波が非常にはっきりしていると思います。
英国の経済学者であるアンガス・マディソンは、1820年、1950年、2003年、2030年という四つの時点を取り上げ、世界経済の推移を見事に描き出しました。
彼の提示したものをアジアに焦点を当てて見てみますと、1820年時点では、アジア諸国は、世界の生産の59パーセントという非常に大きな部分を占めていました。これが、1950年時点には18パーセントになってしまいます。それが徐々に復興していって、2003年では41パーセントに回復しています。そして、近い未来の2030年には、また半分以上の53パーセントほどになるだろうと、彼は分析しています。
そこから、第三の千年期の中での経済成長を見てみると、千年期の前半は欧米...