●ブレトン・ウッズ体制に中国がチャレンジし、二項対立の国際協力システムに
もう一つは、国際開発協力の分野なのですが、この分野は、伝統的には、IMF、世界銀行、それから、アジア開発銀行のような地域開発銀行を中心として、先進国の開発協力機関、日本でいえばJICA(国際協力機構)ですが、そのようなブレトン・ウッズ体制を中心としたものが一体として展開されてきました。これが、この70年近い歴史だったわけです。
それに対して、中国がチャレンジしてきました。2014年になりまして、世界のBRICS開発銀行(新開発銀行)、それから、アジアインフラ投資銀行を立ち上げました。アジアに関しましてはつい最近で、内容は、原点を1955年のバンドン会議に求めています。バンドン会議の10大原則の一つに内政不干渉がありますが、それをベースに、新しい開発協力の体制を展開することを眼目にしているのです。
ブレトン・ウッズ体制とは、開発協力を国際公益の増進といううたい文句で展開していますから、どうしても内政干渉、つまり、こういう開発政策がいいだろうと世界銀行が介入したり、IMFが介入したりして展開してきているわけですが、それに対して、中国中心の開発協力体制は、内政不干渉ということで、これから展開し始めようとしています。
そうしますと、国際公益のための内政干渉対内政不干渉という、二項対立の国際協力システムができていくことになります。これは、そのまま行くと完全にお互いを相殺し合って、世界がぐちゃぐちゃになることは見え見えです。
●日本の開発協力の前提である要請主義に欧米諸国は批判してきた
それに対して、日本は非常に大きな役割を果たすことができる状況にあると思います。日本の開発援助は、1954年から始まりまして2014年で60周年と言われていますけれど、特徴は、同じ1954年に始まりました第二次世界大戦の日本の賠償(支払い)と並行させて展開してきましたので、できるだけ相手国に判断を任せる、要請主義という形をとってきたことです。時には、それがお題目に過ぎなかったり、裏でいろいろ動いたりもしてきたことが現実であることは、皆知っているわけですが、少なくとも建前として、要請主義を日本の開発協力の前提にしてきました。
それに対して、欧米諸国はずっと批判してきました。「そんなことでは駄目だろう。やはり先進国の方が、何が正しいかということはよく分かっているのだから。途上国は、自分たちでなかなか判断できない。判断できないから途上国なので、それに対して責任を持って支援するということは、責任を持って介入するということなのだ」ということが、欧米諸国の開発協力の前提でした。
●最近、日本の開発援助が果たした役割は極めて大きいという認識に変わった
ということで、日本は、開発協力体制の中で非常にユニークな位置づけでしたが、1990年代はODA(政府開発援助)のトップドナーであったわけです。
それが、最近になって、欧米諸国から、日本の開発援助に対する非常に高い評価が出始めているのです。日本のODA予算は、ピーク時から比べて、今半分ほどになっていますが、そういう状況になって評価されているということは、非常に皮肉でもあると言えます。その日本がどうして評価されているかというと、欧米諸国から見ても、アジア諸国の復権が、非常に明確に大きな世界的テーマになっているからです。その中で、日本の開発援助が果たした役割は、極めて大きいという認識も、非常にはっきり出てきたのです。
そうすると、日本の果たした役割、日本の開発援助の仕方は非常に意味があるのではないかという見方となり、まだ主流ではないのですが、そういう評価が出始めてきているのです。
一方、中国では、2002~2003年あたりからですが、日本の開発援助に関する研究がいろいろな形で行われるようになってきて、日本から学ぼうという動きになっています。それは、中国がこうなったのは日本のおかげだという、そういう形の学びも一部ありますけれど、それ以上に、中国が開発協力を行うに際して、日本がやったことから学ぼうということがそこには非常に含まれているのです。
●日本が主導権をもって国際協力システム強化を進めていくことに大きな意味を持つ
そうしますと、21世紀における世界の新しい開発協力システムは、日本モデルが二つの開発協力システムを統合した形があり得るのではないのかという問いかけに関して、欧米諸国からしても、中国からしても、前向きに対応し得る状況があるわけです。
ですから、国際協力システムの強化において、国際協力の中で一番大きな分野である開発協力を、日本が世界の呼びかけ役として、主導権をもって進めていくことは非...