●民主主義も宗教が生み出した一つの思想
それでは「民主主義を考えるための12の根本原理」の第1から行きます。第1番は「偉大なる文明は、その基礎を偉大なる宗教に負っている」です。
これは私が歴史を研究してきた中で一番好きな言葉の一つです。(アーノルド・)トインビーと並ぶ、英国で一番素晴らしいといわれる歴史家のクリストファー・ドーソンが『ヨーロッパの形成』という偉大な書物で言っています。この言葉が、民主主義を考えるために全ての人が知っていなければならない、一番の原理です。「偉大なる文明は、その基礎を偉大なる宗教に負っている」ということです。
文明は全て偉大なる宗教から生まれています。「何々教」といった名前がなくても、全部、宗教や宗教心から生まれています。あとで出てきますが、私は日本人の宗教を「日本教」と言っています。これは(評論家の)山本七平がそう言ったのですが、それを使っています。
日本人は無宗教といわれますが、実は日本人が生み出した全ての文明が、全部宗教なのです。日本人の宗教心が生み出したものです。これがまずわからないとダメです。
だから、民主主義もほかのものと同じで、宗教が生み出した一つの思想に過ぎないということです。これがわかると民主主義は神でもないし、全てではないことがわかってきます。
では民主主義を生み出した偉大なる文明とは何か。われわれが一般にいう民主主義は西洋思想が中心なので、どうしても西洋思想を中心に考えます。そうするとキリスト教になります。だから「キリスト教から民主主義が生まれた」。これが一つの真理です。
でも、あとから説明しますが、民主主義的な社会はキリスト教と関係ありません。日本の歴史でいうと、縄文時代から非常に民主的な社会がありました。では民主的な社会は何から生まれたかというと、「日本教」という一つの宗教です。
ただ、わかりやすくするために、まず西洋の宗教であるキリスト教から言います。民主主義は悪い言い方をすると、実は文明がある程度崩れ去ってからできた政治手法です。これはルネッサンスなど、いろいろなヨーロッパの歴史を研究していくとわかります。
ヨーロッパはルネッサンスから徐々に神を失ってきました。1500年から20世紀までのヨーロッパの500年は、神を失い続けてきた歴史です。神を失い続ける歴史の中から、ヨーロッ...