●「命を懸けた一つの哲学」――本当の民主主義社会を作るために必要なもの
「民主主義を考えるための十二の根本原理」の第8回目に移りたいと思います。「命を懸けた一つの哲学を持つ」ともう一つ、「約束は死んでも守る」です。
これがわれわれが今、20世紀に至る民主主義社会を作るときのヨーロッパ人、特に英国人の理想の思想でした。英国人が民主主義社会を作るときに、一番最初に理想と思った思想が今挙げた2つです。これをもう一回思い出して絶対的なものと考えると、民主主義の本質がわかりやすくなります。
これは英国人が19世紀に立てた考え方です。「命を懸けた一つの哲学を持つ」を唱えたのは、英国のトーマス・アーノルドという思想家です。彼は19世紀に英国でパブリックスクール(名門私立学校)をたくさん作り、パブリックスクールの教育制度を作った教育者です。(パブリックスクールの一つ)ラグビー校の校長をしていました。彼が19世紀に英国ジェントルマンを作る教育を行い、世界的な成功を収めたのです。
みんなも知っている英国が七つの海を支配して、英国が世界的になった原因は、すべて英国人の生き方です。「英国ジェントルマン」と呼ばれた人がいて、そのジェントルマンの数が英国で2万人になったときです。
ジェントルマンがどういう人間か、トーマス・アーノルドは最初からわかっていました。それをこれから作り上げるためにウィンチェスター、ハロウ、イートンといった名門校を整備し、そこからオックスフォードとケンブリッジに上がっていく教育制度を作ったのです。
トーマス・アーノルドが作ろうとした英国ジェントルマンは「立派な人」という意味です。「何ができる」ではなく、立派な人物を作るのが教育と考えて始めたのです。そのアーノルドが言った言葉が「命を懸けた一つの哲学を持つ」です。
イートンから始まって、オックスフォード、ケンブリッジを出る。そこで徹底的にギリシャ語、ラテン語を中心に、古典と全ての教育を施す。そこで何を教育したいのかについて、「これしかない」と言ったのが、この言葉です。
オックスフォード大学、ケンブリッジ大学を出た時点で、その人が自分の一生を懸けて、命を懸けて一つだけやる、「これだけは俺の信念だ」というものを1つだけ作る。2つはダメで、その1つ作らせるための教育が英国のジェントルマン教育なのです。そ...