●19世紀の英国社会では誰もが自分の人生に負い目を持っていた
「民主主義を考えるための十二の根本原理」の第9まで来ました。これは重大な思想です。今われわれが築き上げた民主主義社会の代表は、19世紀の英国社会です。根本原理の第8でもやりましたが、今回は少し違う角度でいきたいと思います。
マイケル・ヤングというイギリスの有名な社会学者がいます。私は彼も大好きで、彼が『メリトクラシー』(〈講談社エディトリアル刊〉マイケル・ヤング〈原著〉、窪田鎮夫〈翻訳〉、山元卯一郎〈翻訳〉、執行草舟復刊協力)という本を書いています。この本の中に詳しく出てくる、私が非常に感動した思想です。
民主主義ができるときの英国社会、そしてちょっと嫌な言葉ですが、英国が世界を制覇して世界最大の文明国、権力国にのし上がっていく時代が19世紀です。この19世紀の大英帝国社会がどういう社会だったかについて、社会学的な証拠を集め、統計学的にフィールドワークをやったのがマイケル・ヤングです。
民主主義を確立して、民主主義を世界に輸出したといいますか、議会制民主主義を築き上げた英国の19世紀の社会は、一般に「ヴィクトリア朝イングランド」といわれます。このヴィクトリア朝がどんな社会だったかを科学的に証明している本が『メリトクラシー』です。その本の中に書いてある言葉が「一人も完全な人がいない」です。
19世紀の英国社会では、歴史的な交錯が起こっていました。国王から始まって、一番貧乏な庶民に至るまで、全員が不満と自分の人生に負い目を持っていた。このことをマイケル・ヤングが証明したのです。
例えば貴族がいます。貴族は当然、すごい金持ちです。権力もあります。11、12世紀から英国はずっと貴族社会でしたが、17、18世紀まで貴族は自分の存在に疑問を持ったことがありません。貴族を英国では「ブルーブラッド」といいます。青い血のことで、血液の色も違うといわれるくらい違っていたのです。
ところが、大衆文化が出てきて、貴族も自分たちが特権階級で威張っていることが歯がゆく、後ろめたくなっていきます。貴族全員が贅沢をしながらも、後ろめたさを持ってきたのです。
一方で庶民は教育制度が整ってきて、19世紀ですから努力して勉強ができれば、一流大学を出て社会のいいところに行ける道が開けてきたのです。庶民はみんな、努力すればなれまし...