●日中の協調発展には四つの前提条件がある
それでは、最後、「日中協調発展のために」という題名で、今後の日本と中国のあり方について、特に、中国に対する日本の向き合い方についてお話をさせていただきます。
まず、日中協調発展のための前提条件を四つ挙げるとすれば、第一点は、何といっても武力衝突を回避することです。幸い、APEC(アジア太平洋経済協力)会議中に開かれた日中首脳会談の席上で、海洋上の衝突に関する紛争処理のメカニズムをきちんと早く確立しようという合意ができましたので、ここに向けての両国政府間の検討が進みつつあると思います。これは、非常に重要なことです。
武力衝突がいったん起きてしまえば、どんなに両国政府が努力をしようとしても、両国民のナショナリズムとナショナリズムがぶつかり合ってしまい、日中関係は非常に悪い状況へと向かわざるを得ません。これは絶対に起こしてはいけない。これが、まず第一点です。
第二点は、すでにある程度克服してきていますけれども、尖閣諸島をめぐる日中両国間の問題、あるいは、歴史認識問題をめぐる日中関係の悪化を、どうやって乗り越えていくのか、ということです。この問題に関しても、すでに昨年から中国政府は政権分離の方針をかなり明確に打ち出してきていますので、状況としてはよくなりつつあります。けれども、これに関して、さらに基盤を固めていくことが必要になってきます。
第三点は、民主導の経済・文化交流の促進です。今の日中関係が急速に改善して、両国が本当に温かい関係になるということは、ほとんど実現可能性がなく、かなり厳しい状態がまだまだ続くと見ていた方がいいと思います。そういう中にあって、実は、経済交流、文化交流の間では、両国間の信頼関係はどんどんと太い絆になってきています。
例えば、日本政府が、中国人に対して、「日本はいい国です」「どんどん日本との交流を進めてください」といくら説得しても、それを信じ、「分かりました」と言って、日本に来る中国人はあまりいないと思います。しかし、いったん日本に来た中国人旅行者のほとんどは、すぐに日本のことが大好きになって、何回も何回も日本に旅行に来たいという人で占められると言われています。そういう意味で、とにかく直接的に日本人と中国人が触れ合い、心を通じ合うことが、最も重要な両国間の絆になることは間違いないと思います。これは、政府ではなくて、民主導でやるべきなのです。
そして、四番目は、やはり歴史認識に関する相互理解の努力で、これは、今後日本にとって非常に大きな課題であるといえます。
これらの点について、少し詳しく述べていきたいと思います。
●民主導の舞台形成のため、政府には重要な役割がある
まず、民主導の話ですけれども、民とは、すなわち、企業と個人が支える経済・文化交流のことで、この中にはスポーツ交流も入ってくると思います。こういったものが、日中関係を強く結び付ける絆を形成すると考えられます。
では、そのときに、民に対して政府は何をするのか。民は主役です。政府は、いわば、大道具、小道具、舞台、照明係と言っていいと思います。その舞台を形成するための重要な条件として、第一に、軍事的摩擦を誘発させないこと。それから、第二に、経済交流に両国の関係悪化を反映させないこと。第三として、その経済交流、文化交流に便利なように、効率的な航空網、もしくは、国内交通のインフラの整備を行うこと。さらには、法人税率のイコールフッティングの確保や、青年交流の促進等を行うのも、政府の重要な役割です。
●観光インフラのボトルネック解消が喫緊の課題
そのように、政府がきちんとした舞台を形成した上で、民である個人、企業が、縦横無尽に自分の本領を発揮して、日中間で共に協調発展し合うことが理想の姿だと思います。そういう民間交流を考えたときに今、一つの大きな問題が生じています。それが、観光インフラのボトルネックの問題です。
実は、昨年(2014年)の1月から11月の間に日本に来る中国人観光客が、前々年に比べて82パーセントも増えてしまったため、それによってバスが足らない、バスの運転手も足らない、ホテルも足らない、通訳ガイドも足らないという異常な問題が起こっています。この急増に対して、どのようにこれらのボトルネックを解消していくのかということが、非常に重要な問題なのです。
実は、まだ中国の国民に対しては、日本に滞在するときのビザの規制を緩和していません(編集部注:左記は収録時点。2015年1月19日より中国人のビザ発給要件が緩和)。緩和をした国でいうと、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアなどがあるわけですけれども、そういった国々は、緩和によって、すでに日本への...