文字を持たない時代に生まれた『オデュッセイア』は、語り手と聞き手が物語を理解し記憶しやすいよう、「折り返し」でエピソードを対比させる構造になっている。物語全体の中央に配置された冥界下りを軸に、折り返し構造として前後のエピソードが対応しており、謎解きのような物語構造の深みを味わえるのだ。さらにギリシア神話は、インド神話の叙事詩『マハーバーラタ』とも驚くべき共通点を見せる。増えすぎた人類を減らす「大地の重荷」というモチーフ、最高神の戦争計画、豊穣の女神(またはその化身)が争いの引き金となる筋書きなど、遠く離れた神話世界に見られる普遍的な物語の秘密を解き明かす。(全9話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●興味深い「折り返し構造」…なぜ物語がこの順番なのか?
松村 ここで忘れてはいけないのは、これは文字がない時代に作られている作品ということです。
―― というと、だいたい皆さん、聞いて……。
松村 そうです。聞くのですが、それを誰かが話しているわけでしょう。話している人は、つまり文字がないから自分の頭の中でそれを作って語っているわけですよね。それは大変なことじゃないですか。
―― 大変ですね。
松村 今の私たちだって人前で話をするときに、メモなしでいきなり「じゃあ、しゃべってください」と言われたら、どのように(聞いている)人たちを引き付けられるか。これは話芸の問題になってくるわけです。
こちらがうまくしゃべることができるだけでなく、聞いている人が分からないといけない。そうすると、むしろある種の「パターン化」が推奨されるわけですよ。何か物語が始まったら、いろいろな出来事があるけれど、それが次々に解決されて、最後は最初の部分と対応するような形で終わる。そういうものが、話す側にとっても、(つまり)物語を作る側にとっても、聞いている側にとっても、私はすごく重要だったと思うのです。
それはテクニックとして、おそらく代々伝えられていたし、人々のほうもそれを聞いていて、その物語に親しむことによって、意識していたかどうかは分からないけれど、そういうパターンがあるということを知っていたと思うのです。これが『オデュッセイア』の中には見事に組み込まれています。
それが一番よく分かるのは、10年間をかけて故郷に帰ってくるというパターンの中のさまざまな冒険譚の配置なのです。
ちょうど真ん中に、冥界に下っていく話があります。ここでは詳しくはお話ししませんけれど、前半のエピソードと後半のエピソードがそれぞれ対応するように組まれているのです。全く同じ内容ではないのですが、共通の要素が必ずあります。
だから、もしもこの『オデュッセイア』という作品に興味を持たれたら、謎探しということで、ぜひ「共通性」あるいは「微妙な違い」を見つけることをやってみていただきたいと思っています。
―― ですから、たとえば3番と13番が対応するということになるわけですね。折り返しということで。
松村 そうです、そうです。だから、例えば2番と14番は、(...