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背景には米国やIMFで高まるドル高や円安への警戒感

実質実効円相場から為替を読む(1)黒田発言の意図

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
「実質実効円相場がかなり円安になっていて、これ以上の実質円安はありそうにない」、2015年6月10日、日銀の黒田東彦総裁はこう発言した。この発言を受け、為替マーケットが動いたこともあり、今シリーズは実質実効相場に焦点を当てて、3部構成で話を進めていく。第1回目は、黒田総裁の発言について、シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏がその真意と背景に迫る。(全3話中第1話目)
時間:13:40
収録日:2015/07/17
追加日:2015/07/27
カテゴリー:
≪全文≫

●実質実効相場に焦点を当てた3部構成


 シティグループ証券で為替の市場調査を担当している高島修です。今日はよろしくお願いします。

 2015年6月10日に日本銀行の黒田東彦総裁が、「実質実効円相場がかなり円安になっていて、これ以上の実質円安はありそうにない」という発言をされました。この発言を受けてずいぶんと為替マーケットも動きましたので、今日は実質実効相場に焦点を当てて話をさせていただこうと思います。

 3部構成で考えていまして、まず一つ目は、6月10日の黒田総裁発言をどう考えるかというところです。二つ目は、実質実効円相場に関して、IMF(国際通貨基金)をはじめとした国際通貨当局者が、どういう見方をしているのかといったところになってきます。三つ目は、そういった実質実効円相場がいま割安化したのかどうか、それをどういう形で判断すればいいのかといったところについて話をさせていただこうと思います。


●市場の関心を集めた黒田発言は必然的


 では、本日一つ目の柱である6月10日の黒田総裁の発言についてですが、その時はちょうどドル円相場が125円台に乗せてくるタイミングでした。国会答弁において、民主党の前原誠司議員の質問に答える形で、黒田総裁が為替相場に関してさまざまな発言をなさっていました。その時、黒田総裁は発言の中で、「実質実効円相場はずいぶんと円安になってきていて、これ以上の実質円安はありそうにない」という話をされました。この発言を受けて、市場参加者の間では、黒田総裁による円安けん制ではないかといった見方が強まりまして、ドル円相場も円高方向へ急落するという動きが起こり、今に至っています。

 私自身は、シティグループにおいて為替のストラテジストをやっており、日本の機関投資家、企業様もお客様の一つなのですが、海外のヘッジファンドをはじめとした、いわゆる短期的な投資家、投機筋も非常に重要なお客様なのです。そういった海外筋から、6月10日の黒田総裁発言の後、「この発言は意図的に円安をけん制しているのか。それとも単なる失言なのか」という質問が相次いだため、世界的に市場が非常に強い関心を集めていたということです。

 そういった質問に対する私の答えは、おそらく限りなく意図的に近い、もしくは意図的ではなくても、黒田総裁の本音に近い発言だと思うけれど、それ以上に重要なのは、この発言は必然的であったということです。


●黒田総裁は円安を志向する傾向が強い


 黒田総裁は、公称の通りもともとは財務省の官僚でした。若い頃は比較的主税局の経験が長く、その意味においては、日本の景気悪化に伴う税収減を、身をもって体験してきた方なのだと思います。一方で、財務省における後年においては、どちらかというと海外畑の仕事をされていて、財務省における最後のポストは、財務官という、日本の通貨政策のトップをやっていたわけです。

 その黒田総裁は今、言うまでもなく日銀総裁なのですが、マクロ経済政策の3本柱である金融政策、財政政策、通貨政策の三つを経験されている稀有な人材といってもいいと思います。

 私が察するところ、黒田総裁が行っている金融緩和の一つの最終目標は、おそらく財政再建なのだろうと思っています。この財政再建を達成するためには、やはりデフレよりもインフレ的な経済環境によって、税収が自然体で増えていく方がいいと思いますし、金融緩和によって円安が進むということであれば、株高にもなってきます。そういった動きになってくると、市場のセンチメント(心理)、経済ムードが良くなってきますから、2017年に控えている消費増税も実現しやすくなってきますし、場合によっては、金融緩和によってその前後の景気を支えるということも考えられると思っています。

 そういう意味合いにおいては、私が見るところ、黒田総裁は、長期的に見ればやはり円安を志向している傾向の方が強いのだろうと思っています。


●黒田発言の背景にドル高円安への強い警戒感


 では、その黒田日銀総裁が、6月10日に、意図的かどうかは別として、「これ以上の実質円安はありそうにない」という発言をしたその真意はどこにあるのか、その背景は何なのかを探ってみたいと思います。

 その見方においては、6月10日の発言よりも、やはり同じく国会答弁だったのですが、5月13日に黒田総裁が行った「過度の円高の修正は終わった」という発言の方に重要性があったのではないかと思っています。

 その時、マーケットは、5月13日の発言にほとんど反応しなかったのですが、私は、この発言を聞いた時、「あっ、黒田総裁、結構言ったな」と思ったのです。ただ、マーケットは反応しなかったので、私自身もその後はあまり深く考えていなかったのですが、結果的に6...
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