テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.06.15

「手遅れ死」とは何か?

 「手遅れ死」というものを知っていますか?健康に心配がある人もない人もあらゆる人にとって決して他人事ではありません。知っておいて損のないお話です。とくに男性は要注意です。

手遅れ死とは?

 手遅れ死とは医療機関に受診した時にはすでに手遅れのケースを指します。手遅れというのは、医療のほどこしようがなく、死を待つより仕方が無いということです。手遅れ死として大きく取り上げられているのは、経済的理由によるもの。

 全日本民主医療機関連合会は2018年4月18日に「2017年経済的事由による手遅れ死亡事例調査概要報告」を発表しました。こちらの資料をもとに手遅れ死の実態をさらに掘り下げていきましょう。

50~60代の孤独状態の男性に多い

 2017年はレポートによると29都道府県において63件の手遅れ死が報告されています。過去の調査では、2010年以降、60~70件ほどを推移しているそうです。性別・年齢の分布をみると、驚くべき結果が出ました。冒頭に述べたように男女比は男性が8割。つまり、ほとんどのケースが男性だということです。

 また、年齢でみると、60代が50%で、50~60代が65%を占めました。さらに世帯構成をみると、独居の方が圧倒的に多いことがわかりました。雇用形態は無職と非正規の方に多く見られ、以上の結果から言えることは50~60代の孤独状態の男性が要注意ということです。

原因は「がん」が56%

 死亡原因は、がんが56%、次いで心疾患が6%、呼吸器系が5%という結果になりました。がんが圧倒的に多いということです。ちなみにがんの場合、男性では肺、胃、大腸、肝臓、膵臓の順に多く、女性には大腸、肺、膵臓、胃、乳房の順に多くなっています。こちらは、国立がん研究センターの統計です。

 がんによる死亡リスクは、男性の場合、25%で4人に1人、女性の場合、16%でおよそ6人に1人の確率です。手遅れ死以前にがん自体、男性の方がかなりリスクが高いことも知っておきましょう。

非正規で無保険、独居の40代男性の事例

 「手遅れ死亡事例調査概要報告」にもとづいて、事例をひとつ紹介します。非正規で無保険、独居の40代男性の例です。

 彼は大学卒業後、県内のリゾート施設に正社員として勤務していましたが、死亡の5年ほど前に自己都合で退職し、しばらく貯金と退職金で生活を繋いでいました。しかし、そのうち生活資金も底をつき、葬儀場の夜間アルバイトを始めました。月収は10万から12万ほどで、車のローンなど総額150万円の借金がありました。国民健康保険料を払うことができず、2年ほど無保険になっていました。

 死亡の半年前より息切れ、黄色い痰や咳の症状が出始めました。職場の健診で精査が必要とされましたが受診しませんでした。2016年12月、呼吸苦を訴え受診。同日短期保険証取得。検査の結果、進行性の肺がんの疑いとの診断で翌々日に入院。生活保護を申請しました。

 抗がん剤治療をこころみるも効果がなく、転院して新薬治療を行いました。しかし効果が見られず、転院から2ヶ月後に亡くなりました。

 やや長くなりましたが、手遅れ死がどんなものか伝わったのではないでしょうか。全日本民主医療機関連合会は、こうした調査結果を提示した上で、国が推進する社会保障制度改革、医療制度改革はいっそう手遅れ死を増大させるとして「社会保障と税の一体化改革」路線に対して異を唱えています。

 冒頭で述べたように、手遅れ死は誰にとっても決して他人事ではありません。誰にでも経済的困窮は降りかかってくる可能性があります。手遅れ死が日本で現実として起こっていることは忘れないようにしておきたいものです。

<参考サイト>
・国立がん研究センター:最新がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
・全日本民医連:2017年経済的事由による手遅れ死亡事例調査資料
https://www.min-iren.gr.jp/wp-content/uploads/2017/04/180428_01.pdf

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授