テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.08.02

身近な有害物質は本当に「有害」なのか?

 2018年4月、100円均一ショップで売られていた台湾製の白髪染めから、日本で配合が認められていないホルムアルデヒドが検出されたとして、輸入元のメーカーによる自主回収が発表されました。ホルムアルデヒドは結膜炎や皮膚炎を起こすほか、発がん性もあると考えられている化学物質です。自主回収はやむを得ない対応だったといえるでしょう。

 また7月には、サンゴ礁を死滅させるといわれるオキシベンゾンなどの有害物質を含む日焼け止めを禁止する法案がハワイで成立。2021年から施行される予定です。オキシベンゾンはサンゴの遺伝子を傷つけ、内分泌腺に異常を起こす環境ホルモンとして作用すると考えられており、この環境ホルモン作用は人体でも同様に起きるという研究もあります。

身近なアイテムに潜む有害物質の影

 白髪染めや日焼け止めなどのなにげなく使っている日用品に、法律で規制しなければならないほどの有害物質が含まれているなんて驚きですよね。しかし、これらは決して珍しいケースではありません。科学が進歩して生活が便利になるほど、有害物質に生活を脅かされるリスクも高まってしまうのです。

有害物質は本当に「有害」なのか

 実際のところ、ホルムアルデヒドが配合された白髪染めを購入した人から健康被害の報告は届いていないそうです。有害物質といわれている物質は本当に有害なのでしょうか。

 この点について化学者の斎藤勝裕理学博士は、自著『知っておきたい有害物質の疑問100』の中で「毒=薬であり、違いは量です」と語っています。つまり、適量を正しい用法で使えば役に立つ物質が、大量に間違った用法で使われると有害になってしまうのです。

 塩素系漂白剤に「まぜるな危険」と大きく書かれていることをご存じの方は多いでしょう。これは、塩素系漂白剤と酸性の物質が混ざると猛毒の塩素ガスが発生することへの注意喚起です。この化学反応によって掃除中の主婦が亡くなる事故が起きたため、1990年に「まぜるな危険」を商品パッケージに表示することが義務づけられました。

 このように、日常生活のちょっとした手違いで有害物質に命を奪われる危険性があるのです。当然ながら、メーカーは消費者を困らせるために有害物質が含まれる製品を開発したわけではありません。斎藤博士は「便利で快適な環境をつくろうと思って用いた物質が、実は有害であったということなのです」とも語っています。日用品も食品も医薬品も、メーカーが想定した使い方をすれば生活を豊かにするものばかり。注意書きをしっかり読み、用法と用量を守ることが大切です。

情報を集めて上手につきあおう

 そもそも有害物質という言葉自体には、明確な定義がありません。人体や環境に悪影響を与える物質はすべて有害物質といえるので、悪徳業者が消費者の不安をあおるためにマイナスの部分だけ強調して有害物質といっている可能性もあります。しかし、大気汚染防止法や水質汚濁防止法などの法律では、なにが有害物質かはっきり決められています。TVやネットの広告などに踊らされないためにも、不安を感じたらどの法律でどのような理由で有害物質とされているのか調べるよう心掛けましょう。

 また、有害物質とみなされるかどうかは科学の進歩で変わることもあります。1950年代に発売された鎮静・催眠薬サリドマイドは、妊娠中の女性が服用すると奇形の赤ちゃんが生まれたり死産の確率が高まったりするため世界各国で販売中止となりました。しかし後年の研究で、骨髄の中に発生するがん・多発性骨髄腫の治療に有効だとわかり、日本では2008年に使用が再開されました。もちろん、用法と用量を厳重に管理しての服用になります。これはまさに、物質が量によって毒にも薬にもなる代表例といえるでしょう。

 このほかにも身の周りには食品添加物や殺虫剤、さらには放射能などさまざまな有害物質があふれています。中には化学兵器のように明らかに有害なものもありますが、上手に使えば効果が期待できるものも少なくありません。しっかり情報を確かめて安全な使い方を心がけましょう。

<参考文献>
・『知っておきたい有害物質の疑問100』(斎藤勝裕著、サイエンス・アイ新書)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授