テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.01.24

ブームが過ぎた「ゆるキャラ」はどうなった?

「ゆるキャラグランプリ」が最終回

 地域の自治体や観光協会などに所属してまちおこしに貢献する、愛嬌たっぷりのゆるキャラたち。その頂点を決する「ゆるキャラグランプリ」が、2020年も10月3・4日に岩手県の岩手産業文化センターアピオで開催されました。優勝は岩手県陸前高田市ゆめ大使のたかたのゆめちゃん。開催地の自治体に所属するゆるキャラが見事頂点に輝きました。

 実は、2011年から始まったゆるキャラグランプリは、この回が最終回。終了の決定に関して、ゆるキャラグランプリ実行委員会会長の西秀一郎さんは「イベントとして一定の役割を終えたと感じた」と語っています。グランプリ終了を決意した時期は、東京オリンピック・パラリンピックが決定した2013年とのこと。東日本大震災で日本中が悲嘆にくれた2011年に始まり、復興五輪と銘打たれた東京オリンピック・パラリンピックの直後に終わるのがふさわしいと考えたそうです。だからこそ最終回の会場には、震災当時に東北の物流拠点となった岩手産業文化センターが選ばれました。

 このように最終回は早い段階から検討されていたのですが、近年はエントリーするゆるキャラが減少し続けており、2018年には全盛期だった2015年の1727体から約半分ほどの896体まで減っていました。終了するにはほどよい頃合いだったのかもしれません。

ゆるキャラのはじまりから人気沸騰まで

 そもそも“ゆるキャラ”という概念はどのようにして誕生し、どのようなきっかけで人気沸騰につながったのでしょうか。

 ゆるキャラという言葉の生みの親はイラストレーターのみうらじゅんさんといわれており、みうらさん自身もそう語っています。ひらめいたのは1990年代後半ごろ。物産展に出かけたみうらさんは、会場の片隅で寂しそうに立っているキャラクターを見かけて哀愁を感じ、大人気キャラクターとは一線を画す立ち位置を与えたいと考えて、ゆるキャラという言葉をつくったそうです。そのとき見かけたゆるキャラこそ、鳥取県PRキャラクター(はじめは1997年鳥取県境港市開催の「ジャパンエキスポ鳥取’97山陰・夢みなと博覧会」のマスコット)のトリピーで、みうらさんから「ゆるキャラクラシック」の称号を与えられています。

 そして、ゆるキャラブームの火付け役となったのが、滋賀県彦根市のマスコットキャラクターであるひこにゃんです。ひこにゃんはもともと2007年に開催された「国宝・彦根城築城400年祭」のマスコットですが、その誕生には重要な使命がありました。実は、幕末期に彦根城の城主を務めた人物のひとりが井伊直弼なのです。直弼は江戸幕府を支えた優秀な政治家ですが、幕府に逆らう人々を弾圧した「安政の大獄」や、江戸城門前で暗殺された「桜田門外の変」などから暗いイメージを持たれやすい人物。そこで、暗さを消し去れるような明るく優しいキャラクターが必要でした。このような経緯でほんわかとした白猫のひこにゃんが採用された結果、その愛らしさに多くの女性や子どもたちが心惹かれてゆるキャラブームが本格化したのです。

時代の変遷でかつての勢いを失う

 ゆるキャラグランプリ初回では、今やゆるキャラ界の大物であるくまモンが優勝。勢いに乗っているように見えたゆるキャラ界ですが、なぜ現在は下降傾向にあるのでしょうか。

 大きな転機となったのが、2016年に政府が交付を開始した「地方創生推進交付金」でした。これは、2014年に宣言された「地方創生」にのっとって、地方自治体の「先駆的な事業」に毎年2000億円が交付されるもの。各自治体はこの交付金を得るために、続々と「先駆的な事業」に着手しました。個性的な地方PR動画が増えたのはこのころからです。動画は再生数で明確な数字が出るため、PR効果をアピールしやすかったのですね。

 これに対し、ゆるキャラのPR効果はあまり明確にわからないうえ、もはや先駆的とはいえません。ゆるキャラの数が爆発的に増えて、観光客などに覚えてもらいにくくなったこともあり、ゆるキャラ事業から撤退する自治体が相次いだのです。また、ゆるキャラの発展型ともいえるいっそう時代に即したキャラクター事業として、VTuberを導入する自治体も現れました。茨城県公認VTuberの茨ひよりがその先駆けで、岩手県公認VTuberの岩手さちこなども登場し、注目を集めています。

 しかし、これでゆるキャラが絶滅してしまったわけではありません。ひこにゃんやくまモンは現在も地元のPR事業で活躍しており、自治体や地域にとって欠かせない一員となっています。旅行先で実体のゆるキャラに出会えれば、格別のうれしさがありますよね。下火になったとはいえ、これからもゆるキャラが消えることはないでしょう。

<参考サイト>
・ゆるキャラグランプリ公式
https://www.yurugp.jp/jp/vote/result_ranking.php
・読売新聞オンライン ゆるキャラはどこへ消えた?
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20180801-OYT8T50038/
・ウォーカープラス 役割を終えた?最後の「ゆるキャラGP」が本日決定、“日本列島総アイコン化”を促した9年の歩み
https://www.walkerplus.com/trend/matome/article/1007639/
・エムアップスタッフダイアリー 『みうらじゅん&安齋肇のゆるきゃらに負けない!』の収録に立ち会いました!
https://m-upholdings.co.jp/staffdiary/?id=2000000796

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

全てが悟りに至る道…日本は茶や花や野球にも「道」がある

全てが悟りに至る道…日本は茶や花や野球にも「道」がある

石田梅岩の心学に学ぶ(6)禅から茶道へ

道元の『辨道話』には「修証一等」の言葉がある。修行も悟りも同じことであり、修行は特別なことではないことを説く。坐禅だけでなく茶をふるまうのも花を活けるのも、生きることそのものが修行になる。ただし、ただ生きるのと...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/05/13
田口佳史
東洋思想研究家
2

江戸時代の新宿…水辺の景勝地としての名残、熊野神社

江戸時代の新宿…水辺の景勝地としての名残、熊野神社

『江戸名所図会』で歩く東京~上水と十二社(2)水辺の観光地としての新宿

世界でも有数の上水道が整備されていた江戸の街。とくに新宿エリアには、玉川上水のみならず、神田上水も流れていたが、そこは牧歌的な観光地としても人気を集めていた。『江戸名所図会』をひもときながら実際に新宿十二社 熊野...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/05/12
堀口茉純
歴史作家
3

「人間天皇」を否定した三島由紀夫の思想が問うものとは

「人間天皇」を否定した三島由紀夫の思想が問うものとは

天皇のあり方と近代日本(4)三島由紀夫VS東大全共闘

世界中で価値観の分断が進み、社会が大きく割れている。ここで想起されるのが、1969年の「三島由紀夫vs東大全共闘」の両極に割れた討論会である。この討論会で、東大全共闘は天皇を罵り嘲笑する一方、三島由紀夫は「この天皇は...
収録日:2021/11/02
追加日:2022/01/06
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
4

時空間を自由に移動!分散化で期待される電力消費の冗長性

時空間を自由に移動!分散化で期待される電力消費の冗長性

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(5)デジタルインフラと電力のこれから

人体における神経と血管の相互補完関係のような、デジタルインフラと電力供給網の密接な関係はいかに構築できるのか。既存の電力設備を活用する最もシンプルな方法や、消費者の近くに点在するデータセンターを活用した、分散型...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/05/11
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
5

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

ノーベル賞受賞「オートファジー」とは?その仕組みに迫る

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(1)細胞と細胞内の入れ替え

2016年ノーベル医学・生理学賞の受賞テーマである「オートファジー」とは何か。私たちの体は無数の細胞でできているが、それが日々、どのようなプロセスで新鮮な状態を保っているかを知る機会は少ない。今シリーズでは、細胞が...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/03/17
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授