テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.03.09

失言を防ぐための6つの「た」

 失言が命取りとなる例は昔から多々ありますが、「鞘走りより口走り」とは、刀の鞘がゆるく勝手に刀身が鞘から抜け出てしまい身体を傷つける危険のある“鞘走り(さやばしり)”よりも、口をすべらせた失言の方が危険で命取りといった意味です。

 言葉の力こそが武器ともいえる政治家は、それゆえに失言が命取りとなる職業ともいえます。2017年にも政治家の失言騒動をめぐり、伊吹文明元衆院議長が所属議員に訓示した【失言を防ぐための6つの「た」】が話題となりました。

伊吹文明元衆院議長が訓示した6つの「た」

 【失言を防ぐための6つの「た」】(伊吹文明元衆院議長の訓示より)

1)立場をわきまえること
 伊吹氏は「みなさんが失敗したら、応援してくれた有権者に大変な恥をかかせる」と述べています。汎用的に解釈すれば、「失言はあなたを応援してくれた人に恥をかかせるだけではなく、あなたを引き立ててくれた人の立場すら損なう行為」ともいえます。

2)正しいと思っていることを話すとき
 伊吹氏は「正しいと思っていることを言うときに、よほど注意しなければいけない。政治の世界では、何が“公平”や“平等”か、人によって判断が違う」と述べていますが、公平や平等といった価値観の違いは、何も政界に限ったことではありません。多様性が尊ばれる現代は、正しさの判断基準も多様といえます。

3)多人数の場で話すとき
 伊吹氏は「多人数のときは、自分の価値観と違う人もたくさん来ている」と述べています。1)と2)にも通じますが、多様な立場の人が多くなればなるほど、場を盛り上げるつもりのリップサービスが、かえって不評を買うことにもつながりかねません。

4)旅先で話すとき
 伊吹氏は「旅先では、笑いを取って、楽しく話してあげないといけないと思うから、ついつい舌が滑る」と述べています。いわゆるアウェイでの発言は場の共有がより難しい場面も多くなります。そして、高度に情報化された現代においては、旅の恥はかき捨てとはいきません。

5)他人の批判をするとき
 伊吹氏は、「他人を批判するときは、よほど注意しないと、自分にもう一度戻ってくる」と述べていますが、2)とも通じる真理ともいえます。他人を批判する行為は、その行為自体が批判の対象になりやすく、いわゆる“ブーメラン発言”ともなりかねません。

6)例え話をするとき
 伊吹氏は、「これは非常に危険だ。例え話をすると誤解されるから」と述べています。例え話は上手く使えば非常に効果的ですが、解釈が多様になりやすい危険性をはらんでいるため、話術が下手であったり価値観や文化的背景の違いを配慮しないような例え話であったりすれば、逆効果となります。

口には「田」?口には「慎み」を

 いかがでしょうか。伊吹氏の示す6つの「た」と自身の発する言葉を照らし合わせ、省みる点がみえてきましたでしょうか。

 他にも冒頭でも例を挙げたように、「口は禍の門(元)」(うっかり言ったことが災難を招く)、「身知らずの口叩き」(身の程をわきまえない者ほど大口をたたいて失敗する)、「白圭の珠は磨くべし、悪言の玉は磨き難し」(白玉の傷は磨けば消し去ることができるが失言はとり返しがつかない)――など、失言を防ぐための故事やことわざによって示された先人の知恵も多々あり、またこれらは“言葉を慎むこと”“口を慎むこと”の戒めとなっています。

 生涯において、“口に慎み”を意識されたと思われる先人がいます。その人の名は、日本マクドナルドの創業者として有名な実業家の藤田田(ふじた・でん)です。「田(た)」の一文字を「田(でん)」と音読みする名前は「口に十字架」を意味し、“慎みある言葉を話すように”との祈りを込めて、クリスチャンの母・睦枝によって名付けられたそうです。

 「慎みを知って慎まざれば禍遠きにあらず」(慎むべきことを知っていながら慎まなければ、遠からず不幸にあう)ではありませんが、失言を防ぐためには何よりもまず、慎みを知り、さらには慎みを言動で示す必要があります。

 言葉を発する口は、いつもあなたとセットです。しかし、口から発せられた言葉は、良くも悪くもあなたから独り立ちします。そして「悪事千里を走る」(悪い行ないや悪い話は、たちまち世間に知れ渡る)ではありませんが、傾向として後者の方がより顕著です。

 「口故に身を果たす(失う)」とならないよう、いつも口には微笑みと慎みという戒めを、そして具体的には【失言を防ぐための6つの「た」】を意識してみてください。

<参考文献・参考サイト>
・【復興相辞任】伊吹文明元衆院議長、失言回避へ6つの「た」 二階派例会で訓示 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/politics/news/170427/plt1704270020-n1.html
・「伊吹文明」『日本人名大辞典』(講談社)
・『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
・『勝てば官軍』(藤田田著、ベストセラーズ)
・「藤田田」『日本大百科全書』(小学館)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

グローバル・ウエスト対中露、努力むなしい日本の現実

グローバル・ウエスト対中露、努力むなしい日本の現実

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(6)グローバル・ウエストと中露の戦略

世界の勢力図を変えつつあるグローバル・サウスの影響力は、G7をはじめとするグローバル・ウエストの国々に深く浸透しつつある。また、中南米や中東、そしてアフリカのグローバル・サウスを取り込もうとする激しい争いは、グロ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/05/08
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
2

地球儀を俯瞰する!?国際政治を読むために重要な地図の見方

地球儀を俯瞰する!?国際政治を読むために重要な地図の見方

地政学入門 歴史と理論編(2)なぜ地理が重要なのか

国際政治を地理的要素に着目して分析するのが地政学だが、なぜ地理が国家間の政治を考える上で重要な要素になるのか。その理由は地理が持つ「不変性」にあると小原氏は言う。また、地理を考えるときに欠かせないのが地図で、見...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/05/07
小原雅博
東京大学名誉教授
3

法曹界の『人間観』は間違い?脳の働きから考える「善悪」

法曹界の『人間観』は間違い?脳の働きから考える「善悪」

ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として

“ヒトの罪とは何か”――この問題について、法学や哲学的アプローチでなく、進化生物学・進化心理学的視点から考察するのが今回の講義の趣旨である。ヒトが社会的動物として集団生活を送る中で個人間に利害対立が生じ、これを調整...
収録日:2023/12/11
追加日:2024/02/25
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長
4

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(1)内藤新宿の誕生と役割

江戸時代後期に書かれた地誌『江戸名所図会』(えどめいしょずえ)をひもとくと、江戸時代の街の様子や人々の暮らしぶりが見えてくる。今回は、五街道の宿場町として重要な役割を果たした「内藤新宿」を取り上げ、新宿のかつて...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/21
堀口茉純
歴史作家
5

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者