●地理という客観的な条件が国際政治の分析に欠かせない理由
―― 続いて、スパイクマンの言葉を挙げていただいております。
小原 はい。ここに書いてあるように、「地理とは外交政策において最も基本的なファクターである。何故ならば地理は不変であるからである」はスパイクマンの言葉で、あとでまた出てきますが、大変な地理学者です。地政学においては、著名な大地理学者なのです。その下にハンス・モーゲンソーの言葉もありますが、彼のいいたいことは、パワーとして考えた場合、地理はとにかく基本的には与件であって、客観的な要素として変わらないということです。
よくいうのが、中国と日本の関係です。中国の隣国である日本は、ここから引っ越しはできないということをよくいいます。「一衣帯水」といいますが、こういう関係はどこもありますけれど、隣に中国という国があって、この中国と古代から日本はいろいろな関係を持ってきたわけです。したがって、中国とはもうどんな時代が来ようとつきあっていかないといけないのです。
そうした地理というものの客観性、あるいは不変性といったものがあるので(すが)、実は国際政治というのは非常に複雑で多様で、かつ曖昧な部分もかなりあるわけです。
なぜかというと、政治上の本質は基本的に人間の本性が関わってきますから、例えばプーチンが何を考え、どう行動するのか、習近平が何を考え、どう行動するのか、金正恩にしろ、バイデンにしろ、トランプにしろ、「人間が本当に合理的に行動するのかどうか」、つまり合理的に行動するということであれば、1つの法則ができて、学問として成り立つわけですけれど、それが全く不合理な行動をしてしまうというところで、なかなか先が読めないのです。
そうした先が読めない中で、地理というのは、そういったある種の客観性があって不変性があります。だから、そこをしっかり読み解いていくと、先を読む1つのヒントというものが与えられるのです。そこには歴史もあるわけです。「なぜこんな戦争が起きたのだ」という背後に、実は地政学というものがあって、そこは変わらないのです。
ひょっとすると同じようなことが将来起こるかもしれないよという、歴史のアナロジーというのでしょうか。単純な類推はいけないのですけれど、そうして歴史を研究することに...