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DATE/ 2024.02.25

魚は水を飲む?水分補給の必要はあるのか?

 生き物は水なしでは生きていけません。砂漠のような乾燥地の生き物は体内に水を蓄える機能を持っていたり、ごくわずかな露を集めたりするなど懸命に水分を確保しています。一方で、大量の水に囲まれて生きている魚の場合はどうなのでしょうか。結論から言えば、海水魚は口から水を飲みます。一方で、淡水魚は水を飲む必要はありません。どういうことなのか少し詳しく見てみましょう。

鍵は「浸透圧」にあり

 海水魚と淡水魚で水を飲むかどうか、分かれるポイントは「浸透圧」に関連します。浸透圧とは濃度の低い方から濃度が高い方に水が移動する現象です。浸透圧の身近な例としては「浅漬け」がわかりやすいのではないでしょうか。きゅうりやなすを塩につけると、中から水分が出てきて旨みが凝縮され、シャキシャキとした食感になります。つまり浅漬けでは、塩を使って外側の水分濃度が上がった状態を作り出すことで、濃度の低い内側から濃度の高い外側へ水を染み出させています。このように「浸透圧」を私たちは利用して生活しています。

 また動物は運動したり気温が高かったりして汗をかくと、体内の水分量が減って塩分濃度が上がってしまいます。こうなると喉が渇き、水を飲む行動が促されることになります。この時には同時に尿を減らすホルモンの働きにより、尿としての水分排出は抑制されるとのこと。つまり、体内の塩分濃度は、いつも一定になるようにコントロールされています。動物の場合、この基準となる体内の塩分濃度は0.9%です。

 こういった仕組みは動物全般で同じです。つまり魚も体内の塩分濃度は0.9%に保つ必要があるのです。これに対して、海水の塩分濃度はおよそ3.3%から3.5%と非常に高い状態になっています。この一方で、淡水(川や湖、沼、池など)の塩分濃度は0.05%以下です。水の中で生活している魚たちの場合、浸透圧によってこれらの塩分濃度から大きな影響を受けることになるのです。

淡水魚は水を排出し、海水魚は水を飲む

 このように淡水に住む魚であれば、外の塩分濃度の方が圧倒的に低いことになります。水は浸透圧により濃度の低い方から高い方へ動くので、このとき魚の体内には外から多くの水が侵入してきます。このことで、淡水魚は口から水を摂取する必要はなく、むしろ体内の水を絶えず排出する必要に迫られています。このことから、淡水魚は体液よりも低い濃度の水を主に尿として大量に排出しています。

 一方で、海水の塩分濃度は体内の塩分濃度よりもだいぶ高いことがわかります。この時には浸透圧によって、体内の水分が絶えず外に出ていきます。こうなると体内細胞の塩分濃度が高くなってしまうことから、海水魚は水を飲む必要が生じます。ただし、塩分濃度の高い海水を飲むことになるので、塩分を効率よく排出する構造をエラなどに備えているそうです。

 また、海水と淡水両方のエリアで生活する魚もいます。たとえば汽水魚(川の河口域で海水と淡水が入り混じる汽水で生活する魚)であるフグやハゼなどや、回遊魚(川で生まれて海に行き、再び川を遡上する魚)であるサケ、アユ、ウナギなどは淡水でも海水でも生活できる機構を備えているそうです。ある意味とても器用な魚たちと言っていいかもしれません。

海の生き物すべてが海水を飲むわけではない

 ただし、すべての海水魚が水を飲むわけではないようです。例えば「軟骨魚類」と呼ばれるサメの仲間は、体内で作られたアンモニアを尿素に変えたあとあまり排出せず、体内に溶け込ませるそうです。このことで海水と同じ濃い体液を作っているとのこと。哺乳類が腎臓で水を再吸収するのに対して、サメは腎臓で尿素を再吸収するような仕組みになっているという違いがあるようです。

 またイルカやアシカ、アザラシなどの哺乳類の仲間である「海獣類」も海水はほとんど飲みません。人間と同様、海水を飲むと体内の塩分濃度が一気に上がってもっと喉が渇くことになります。このことから、魚などの餌を食べることを通して、その魚やプランクトンなどが持っている水分を摂取しているそうです。

<参考>
魚は水を飲む必要なし!?意外と忘れている高校生物の話│Discovery
https://www.discoveryjapan.jp/news/nrus0vp5z1h0/
魚と水│SUNTORY
https://www.suntory.co.jp/eco/teigen/jiten/science/07/
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