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DATE/ 2017.07.09

国際人材としての基礎力を養成する学習院大学の新学部

 初夏から秋にかけては各大学のオープンキャンパスが熱い季節。高校生向けの模擬講義、在学生が案内するキャンパスツアーなど、気になる大学の雰囲気や将来勉強したいテーマを体験してみるチャンスです。2016年、学習院大学が52年ぶりに新設した国際社会科学部について、10MTVでは同学部教授である伊藤元重氏が直接ナビをされています。

「甘くない」学びで、「まじめに」世界を目指す

 国際社会科学部のHPを開くと、「まじめ」と「甘くない」がキーワードになっていることが分かります。「語学」と「社会科学(ソーシャル・サイエンス)」の二本柱を4年間で身につけようというのだから、「まじめ」でなければついていけないし、専門科目を英語で学ぶのは「甘くない」学びであろうと想像がつきます。

 伊藤氏によると、カリキュラムは4年を丸ごと生かしたステップアップ方式です。最初の2年間、学生は英語を徹底的に学ぶとともに、社会科学を日本語とやさしい英語で学び始めます。3年生からの2年間はキャリアへの仕上げとして、多くの授業を英語で受講し、英語でディスカッションやプレゼンテーションを行っていきます。

 また、4週間以上の海外経験を必修で課している点もユニークです。留学は単なる語学留学にとどまらず、例えば発展途上国の経済支援や国際的な環境問題についての考察などを視野に置いたものとなります。

学部の基本ツールは英語

 迎える教授陣も、伊藤氏をはじめとした社会科学教員と英語教員が、いずれも学部の専任として担当します。ここで注意したいのは、伊藤氏が経済学者としてのスタートを米国ヒューストン大学で切っていることです。その他の教授も、海外で博士号を取ったり、海外で教えた経験を持っていたり、国際的な学会で活躍している教員ぞろい。いずれも、専門テーマを英語で教授できる方ばかりです。

 英語教員のほうも、日本人のほかにアメリカ人・イギリス人・カナダ人と国際色豊か。単にネイティブであるというだけでなく、英語教育のプロフェッショナルとして、国際人にふさわしい英語の力を磨いてくれます。英語を基本ツールとした専門的なソーシャル・サイエンスの教育が、本学部では期待できるということです。

英語で「日本経済」を語れる力を20歳で身につける

 伊藤氏の専門を例に取れば、1年生にはグローバル経済入門の演習を行います。大学に入学した途端、難民問題、外国人労働者問題、三菱自動車の不祥事、値上げ・値下げのもたらす影響と物価など、今まさに目の前で動いている社会課題のトピックを検討するのです。課題をニュースとして見聞するだけでなく、解決に取り組む側へ、大きな意識転換です。

 2年目にあたる本年度は、2年生にも「Japanese Economy」を講義。日本経済そのものを英語でレクチャーし、語り合う目論見です。日本経済についての講義をあえて英語で行う意味は、学生たちが日本経済を海外で語れるような知識・能力を身につけさせるためです。

 欧米の大学では、このようなタイプの学部教育は「リベラルアーツ」的な教育と呼ばれることがあります。学習院大学国際社会科学部が目指しているのは、ジェネラリストとしての常識や判断力、多岐にわたる知識や分析力のようです。

 4年間の学びの後、さらに専門的な研究を目指すもよし、国際的な人材として国際機関の職員や海外企業に就職して実力を発揮するもよし。日本が今求める人材の一つのプロトタイプが、この学部にはありそうです。
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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授