社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
『キリスト教における死と葬儀』から「看取り」を考える
「ホスピス」「終活」「看取り」の時代
団塊の世代のすべての人が75歳以上の後期高齢者となる2025年、国民の3人に1人の65歳以上、5人に1人が75歳以上となると言われています。少子高齢化の進行とともに、昨今では「ホスピス」や「終活」、「看取り」と「看取られ」といった言葉がマスメディアやウェブ上で当たり前のように飛び交うようになり、これまではどちらかといえば話題にすることをタブーとされていた死を迎えるための方法が大きな関心を集めています。
「おくりびと」も「悼む人」も2008年
すこし前のことになりますが、アカデミー賞を受賞し大きな話題を呼んだ滝田洋二郎監督の映画「おくりびと」では、まさに現代的な生と死の問題が取り上げられています。「おくりびと」の公開からまもなく、同じく死をテーマに描いた天童荒太氏の小説「悼む人」が直木賞を受賞しました。「悼む人」は2012年に舞台化、2015年に映画化されました。「おくりびと」も「悼む人」も、その公開がもしも「死」についての話題を控えることが当たり前だった時代なら、当時ほどの支持は得られなかったかもしれません。その意味で、死と向き合うことをテーマとした作品が同時に注目を集めたのは、「看取り」を考えるうえで非常に象徴的な出来事だったといえるでしょう。
看取るときこそ、あえてユーモアが必要
「看取り」について、キリスト者(教徒)の立場から「実践的・牧師的な視点をもって、看取りや悼み、死の準備教育」について描かれている大変興味深い本があります。それは、『キリスト教における死と葬儀 現代の日本的霊性との出逢い』(石居基夫著、キリスト新聞社)という本で、先述した天童荒太氏との対談も収録されています。著者は、日本ルーテル神学校校長でルーテル学院大学教授の石居基夫氏です。同書では、実践的な視点が重視されているということで、キリスト教に普段あまり馴染みのない方にとってもヒントになることがたくさん書かれています。
そもそもキリスト教はとても現実的で実践的な宗教でもあるのです。宗教改革を行った歴史的偉人ルターは、『死への準備についての説教』という本の出だしに、「財産は遺されたものにとって争いの種だから、適切に処分しておくように」と勧めています。説教のいちばんはじめにお金の話を書いているわけです。キリスト教というと、どうしても哲学や神学の難解な話を思い浮かべる人も少なくないかもしれませんが、そればかりではないのですね。
3つの看取りの作法
石居氏は、看取りの作法として、大きく3つのことを提案しています。まず、一人で抱え込まずに、必要な時には介護や医療サービスなどの「社会的資源」を活用すること。2番目に、臓器提供や延命治療など最後の時の事柄について自分の意思をはっきりと示していくこと。これを「リビング・ウィル」というそうです。
3番目が、「リビング・ウィル」とも通じることだと思いますが、自分が死を迎える時に何をしてほしいかを伝えるための「エンディング・ノート」を準備すること。
また、デーケン神父という方の言葉を引用して、看取るときこそ、「あえて『笑う』ユーモアが必要だ」と述べています。これについて、キリスト教の教義と照らして、「ユーモアには、重たい現実から自分を離れさせる力があり、また笑いは何よりも人々に対する優しさと神の愛への信頼を表すことにもなる」とその理由を明らかにしています。
「社会的資源」も「リビング・ウィル」も「エンディング・ノート」も「ユーモア」もとても具体的な提案ですね。「看取る」側にも「看取られる」側にもそうした準備は必要になってくるでしょう。そのためには、まず何よりも、問題を先送りせずに真摯に向き合おうとする姿勢が重要なのかもしれません。
<参考文献>
『キリスト教における死と葬儀 現代の日本的霊性との出逢い』
(石居基夫著、株式会社キリスト新聞社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4873957052
<関連サイト>
石居基夫氏のブログ
https://mishii-luther-ac.blogspot.jp/
『キリスト教における死と葬儀 現代の日本的霊性との出逢い』
(石居基夫著、株式会社キリスト新聞社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4873957052
<関連サイト>
石居基夫氏のブログ
https://mishii-luther-ac.blogspot.jp/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和は、いかにすれば実現できるのか――古今東西さまざまに議論されてきた。リアリズム、強力な世界政府、国家連合・連邦制、国連主義……。さまざまな構想が生み出されてきたが、ここで考えなければならないのは「平和」だけで良...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/08
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
眠る環境は各家庭の状況や個人の好みによって大きく異なるが、一般的に「良い睡眠」のために望ましい環境はどのようなものだろうか。布団や枕などの寝具、エアコンなどの室温コントロールを含めた寝室の環境、また寝つきの良く...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/12/07
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
役者絵からキャリアを始め、西洋の画法を取り入れながら読本の挿絵を大ヒットさせた葛飾北斎。その後、北斎が描いていった『北斎漫画』や浮世絵などの数々は、海外に衝撃を与えてファンを広げるほどのものになっていく。60代は...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/06
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントが世界的に普及し始めたのは1990年代。ソフトウェア産業の発展とともに拡大を続け、時代のニーズを受けて多くのシーンに定着してきた。今回は、その基本に立ち返り、国際標準をもとに、プロジェクトと...
収録日:2025/09/10
追加日:2025/12/03


