テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.10.09

「努力は必ず報われる」のは本当か?

 「努力は必ず報われる」という言葉があります。

 「努力しても報われないことがあるだろうか。たとえ結果に結びつかなくても、努力したということが必ずや生きてくるのではないだろうか。それでも報われないとしたら、それはまだ、努力とはいえないのではないだろうか」

 こちらは、「世界のホームラン王」として名高い王貞治氏の言葉です。

 スポーツから学業、仕事に至るまで、「努力」は称賛こそされ、否定されることはありませんでした。今回、取り上げたいのは、そんな「努力」にエクスキューズを叩きつけたタイトルで話題となった中野信子さんの著書『努力不要論』です。

 中野さんは、脳科学者で、NHK「英雄たちの選択」のコメンテーターとしてご存じの方も多いのではないでしょうか。

 本書で中野さんは、「努力は報われる」は半分本当で、半分嘘であると主張します。

過剰な努力の危険性

 人生、どんなに頑張っても、できることは限られています。

 強いられた無理な課題やノルマで心が折れてしまうサラリーマンも少なくありません。だからこそ、昨今、「頑張らない」「無理しない」、そんな生き方が提案されるようになってきました。

 「できないのは努力が足りないからだ」と根性論や精神論でもっともらしく説教するのは、どちらかというとブラックな企業の洗脳手法です。人の判断力を奪うには、睡眠時間を奪い、食べ物を与えず、高ストレスな環境を用意すればよく、それだけでほぼ洗脳できてしまうとのことです。

 また、過剰な努力の危険性は、その中毒性にあるといいます。始めると途中でやめられなくなるばかりでなく、過剰な努力の対価として倫理的に悪い行いをする傾向が高くなるとのこと。その理由は、無意識な脳のはたらきとして「自分はこれだけ頑張っているのだから許される」という言い訳をしてしまうからです。

努力はしなくてよい?

 では、頑張ること、努力することは、本当に不要なのでしょうか?

 不要な努力とは、精神論的で根拠のない過剰性にあります。苦労することが努力することではないことを、まず知っておくべきでしょう。

 人間の能力や機能は、何もしないとどんどん衰えていくことから、負荷をかけ続ける必要があります。努力は、無意味な苦労ではなく、意味ある負荷としてその価値を見出すことができます。

 人間の能力や限界を客観的に捉え、戦略的に設定された目標にむかう負荷=努力は否定されるものではありません。

 中野さんは、「間違った努力」とその弊害を分析しつつ、成果の出る努力に必要なものとして、1:目的を設定する、2:戦略をたてる、3:実行する、という3段階のプロセスを踏むことを説いています。

 「石の上にも三年という。しかし、三年を一年で習得する努力を怠ってはならない」

 これは、パナソニック創業者である松下幸之助の言葉です。結果や成果につながる、意味のある努力が、計画性に基づくものであることを、偉人のメッセージからもうかがい知ることができます。

<参考文献>
・『努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』(中野信子著、フォレスト出版/2014)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

台湾クーデター・シミュレーション…「世直し」への条件

台湾クーデター・シミュレーション…「世直し」への条件

編集部ラジオ2025(25)クーデターで考える「政治の要点」

冷戦終結後に減少していた「クーデター」。しかし、2019年以降、再び増えだしているといいます。その背景には、中国やロシアなど「権威主義」の国々とアメリカとの対立、さらに「ワグネル」など民間軍事会社の暗躍などがありま...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/23
2

やればできる!再生可能エネルギーのポテンシャル高い日本

やればできる!再生可能エネルギーのポテンシャル高い日本

産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(2)再生可能エネルギーの可能性と経済性

持続可能な日本社会をめざす「プラチナ社会」の構想。その実現に向け2024年12月に設立されたのが再生可能エネルギー産業イニシアティブで、これは再生可能エネルギーで国内の電力を賄おうというものだ。AI技術の普及などで今後...
収録日:2025/04/21
追加日:2025/10/23
小宮山宏
東京大学第28代総長 株式会社三菱総合研究所 理事長 テンミニッツ・アカデミー座長
3

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か

サヘル地域をはじめとして、近年、世界各地で多発しているクーデター。その背景や、クーデターとはそもそもどのような政治行為なのかを掘り下げることで国際政治を捉え直す本シリーズ。まず、未来の“if”として台湾でのクーデタ...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/04
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
4

ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?

ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?

エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄

ソニー・ミュージックエンタテインメント(ジャパン)は、アメリカのコロムビアレコードと1968年に創業した、日本初の外資とのジョイントベンチャーである。ソニーはもともとエレクトロニクスの会社だったが、今のソニーグルー...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/10/20
水野道訓
元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO
5

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ

算数が苦手な子どもが多く、特に分数でつまずいてしまう子どもが非常に多いというのは世界的な問題になっているという。いったいどういうことなのか。そこで今回は、私たちが言語習得の鍵となる「スキーマ」という概念を取り上...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授