社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.11.04

日本では少ない「デモ運動」その効果とは?

 日本ではデモに対してあまりポジティブな印象がありません。おそらく、「デモなんてやっても無駄」という意見を持つ人が多いからでしょう。

 実際のところ、デモ運動はどれほどの効果があるのか、いくつかの角度から検証してみたいと思います。

報道されない無数のデモ

 お隣の韓国では朴槿恵前大統領に対するデモ、スペインではカタルーニャの独立デモ、アメリカのトランプ大統領に対するデモなど、世界中で大規模なデモが起きていることを私たちは知っています。

 ところで、そのことを私たちはなぜ知っているのでしょうか。答えはとっても簡単で、マスメディアによって報道されるからです。

 実は、日本でもほとんど毎日のように、「原発」「辺野古」「憲法」「戦争」に反対するデモは起きています。サイト「マガジン9」の「デモ情報」を見るとそのことがよくわかります。その規模によってはまったく報道されないわけではありませんが、日本では日本国内のデモについて、あまり報道されることはありません。

デモの目的は知らせること

 「マガジン9」の「佐藤潤一のカエルの公式」では「デモで何が変わるのか?」について説明しています。結論をいえば、デモによって急速に大きく変化させることはできません。デモは事態をすぐさま変化させるためにあるというよりも、「変化のための変化」を起こすためにあるとしています。

 つまり、デモの目的は、社会問題にスポットライトを当てること、政府や多くの人に知ってもらうことが目的だということです。デモによって、まず知ってもらうことで、社会変化の可能性を模索していこうという構えなのです。

新しいデモが生まれている

 ウェブサイト「AERA dot.」の連載「eyes 東浩紀」では、批評家の東浩紀さんが新しいデモが台頭していることを指摘しています。

 「かつてデモは権力に抵抗するもの」でした。だからこそ「デモは民主主義の源泉とされた」のです。しかし、最近はデモとデモが衝突するというかつてない「新しいデモ」が台頭していると述べています。

 米国バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者とそれに対するカウンターのデモ衝突では、青年がカウンター側に車で突入し、女性が亡くなるという事態となりました。東さんは、2016年のイギリスの国民投票や米大統領選、今年(2017年)5月の仏大統領選でも似たような現象が確認されたと述べています。

 もし、このような暴力事件が増加していくと、民主主義の解体に陥ると危機感を表明しています。東さんは「ヘイトスピーチやデモの厳格な定義と法的規制こそが、唯一の解決の道である」と解決策を明言しており、これも特筆すべき点でしょう。

 ここまでの話から学べることは、「デモは知らせるためにあること」。それから、「デモは権力に抵抗するために生まれた」ということです。

 デモの衝突はたしかに民主主義の危機ですが、自分の意見を表明せずに権力にただ従うことも民主主義とは相入れません。いま、デモについて、あらためて考え直す時代を迎えています。これを機会に、偏見やステレオタイプから離れて、デモが民主主義の源泉であることを念頭に、デモについて自分なりに考え直してみてはいかがでしょうか。

<参考サイト>
・マガジン9 デモ情報
http://maga9.jp/demoinfo/
・マガジン9 カエルの公式
http://www.magazine9.jp/kaeru/120912/
・AERA 東浩紀「デモの敵は民衆 米国で進む民主主義の深刻な危機」
https://dot.asahi.com/aera/2017082900056.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
2

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命

雄大で雄渾な生命の全体像…その中で点滅する個々の生命

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(5)『秘蔵宝鑰』が示す非二元論的世界

全ては光だと説く空海が、なぜその著書『秘蔵宝鑰』で、「死に死に死に死んで死の終りに冥(くら)し」と書いたのか。『秘蔵宝鑰』については、以前のテンミニッツ・アカデミー講義でも解説したが、そこから半年かけてこの書を...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/26
5

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン

熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法

「熟睡とは健康な睡眠」だと西野氏はいうが、健康な睡眠のためには具体的にどうすればいいのか。睡眠とは壊れやすいもので、睡眠に影響を与える環境要因、内面的要因、身体的要因など、さまざまな要因を取り除いていくことが大...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/11/23
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授