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「週刊文春」と「週刊新潮」のスクープの作り方
書店はもちろん出版社も取次も「もう限界!」の声を上げる出版不況。なかでも週刊誌は、インターネットやスマホの普及で1996年に比べると部数マイナス62%、金額マイナス50%と、大変厳しい状況にあります。そのような中、文春砲と呼ばれスクープで芸能界を震撼させる『週刊文春』と、2014年に創刊60周年を迎えた老舗の『週刊新潮』。硬派な「告発型ジャーナリズム」を代表する二誌は、闘い続ける姿勢を崩しません。どういうメンタリティが、彼らを支えているのでしょうか。
2018年1月、一冊の新書が発売されました。「『週刊文春』と『週刊新潮』 闘うメディアの全内幕」とタイトルされ、1988年から6年間『週刊文春』の編集長を務め、部数を51万部から76万部に伸ばした花田紀凱氏と、新潮社に入社以来『週刊新潮』に25年間在籍し、特集斑デスクとして800本近い特集記事を執筆した門田隆将氏の対談です。
たとえば2017年6月の豊田真由子代議士暴言・暴行騒動では、「この、ハゲーッ」「ちーがーうーだーろー!」などの音声ファイルを『週刊新潮』が入手。各局がテレビでこの音声を流すたびに使用料が支払われたため、新潮社は相当潤ったと噂されています。
テレビ局が週刊誌ネタをパクリたがるのは、広告収入が減って番組制作費が抑えられているため。しかし、その事情は出版社も同様。そればかりか、スマホで情報が取り放題の現在、「家へ持ち帰ってまで読みたい」と思わせる記事をつくるには、取材費とともにプロのノウハウが欠かせません。まさに、闘うメディアの軍資金といえるでしょう。
『週刊新潮』では、10年選手にならないと長い記事は書かせてもらえません。20代のうちはデータマン(原稿の材料となる情報・資料を集める役)として取材をきっちり行うのが仕事です。罵倒され、塩を撒かれながらも、張り込んで取材し、データ原稿を書く。それをまとめて記事に仕上げるデスクには「なんだ、このデータ原稿は」と叱責される。今ならブラック中のブラックで、「大学を出たてだからできること」と門田氏は振り返ります。
花田氏自身が初めて手がけたスクープは1970年の「富士銀19億円不正融資事件」。潜伏中だった犯人を香港まで追いかけ、警察に先駆けてインタビューを取ったもので、社長賞を獲得しました。以来、花田氏はスクープ人生(?)を歩み、野坂参三スパイ説から貴花田・宮沢りえ婚約解消危機まで、さまざまな話題を提供します。1989年には、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の加害少年4人の実名報道に踏み切り、少年法改正論議にも火をつけました。
ちなみに花田氏の文春時代の誌面作りは「売れるか・売れないか」が判断基準。販売日が迫ると、会社近くのコンビニで売れ残っている前の号を買いあつめる姿が人びとを突き動かしたと言われます。自分で買ってまで『週刊文春』の部数を伸ばそうとした愛情・意欲は報われ、編集長に在任してすぐ『週刊新潮』を抜いて発行部数日本一を獲得しました。
自称「アマ集団」だという文春がスクープを取れるかどうかは、編集長の資質次第だと「文春砲」の基礎をつくった花田氏は言います。現場がどんなに苦労して取ってきたネタも、「上の意向」次第で誌面にならなければ、モチベーションは下がる一方だからです。
2017年は下村元文科省ヤミ献金疑惑、山尾志桜里議員「お泊まり禁断愛」、2018年に入り小室哲哉不倫疑惑での引退騒動など、スクープを連発する現・新谷学編集長は「親しき仲にもスキャンダル」がモットー。その遠慮のなさ、ファクトを露出することへの熱意は「自分以上」と花田氏も太鼓判を押すつわものです。
2018年1月、一冊の新書が発売されました。「『週刊文春』と『週刊新潮』 闘うメディアの全内幕」とタイトルされ、1988年から6年間『週刊文春』の編集長を務め、部数を51万部から76万部に伸ばした花田紀凱氏と、新潮社に入社以来『週刊新潮』に25年間在籍し、特集斑デスクとして800本近い特集記事を執筆した門田隆将氏の対談です。
『週刊新潮』は、「このハゲー」で一息ついた
門田氏によると、週刊誌のスクープがテレビのワイドショーを巻き込んで社会的事件となり、各局の報道合戦が過熱するようになったのは、1984年の『週刊文春』によるスクープ「疑惑の銃弾」(三浦事件、ロス疑惑とも)から。以来30年間、テレビ局が雑誌の記事にタダ乗りする状況が続いてきましたが、2016年、ようやく記事の使用料をテレビ局が支払うシステムが構築されたといいます。たとえば2017年6月の豊田真由子代議士暴言・暴行騒動では、「この、ハゲーッ」「ちーがーうーだーろー!」などの音声ファイルを『週刊新潮』が入手。各局がテレビでこの音声を流すたびに使用料が支払われたため、新潮社は相当潤ったと噂されています。
テレビ局が週刊誌ネタをパクリたがるのは、広告収入が減って番組制作費が抑えられているため。しかし、その事情は出版社も同様。そればかりか、スマホで情報が取り放題の現在、「家へ持ち帰ってまで読みたい」と思わせる記事をつくるには、取材費とともにプロのノウハウが欠かせません。まさに、闘うメディアの軍資金といえるでしょう。
『週刊新潮』では、10年選手にならないと長い記事は書かせてもらえません。20代のうちはデータマン(原稿の材料となる情報・資料を集める役)として取材をきっちり行うのが仕事です。罵倒され、塩を撒かれながらも、張り込んで取材し、データ原稿を書く。それをまとめて記事に仕上げるデスクには「なんだ、このデータ原稿は」と叱責される。今ならブラック中のブラックで、「大学を出たてだからできること」と門田氏は振り返ります。
絶好調の「文春砲」。そのスクープの作り方は?
新潮の「データマン・アンカーマン」という安定したスクラムとは逆に、ネタを持ってきた者が完成原稿まで仕上げるのが『週刊文春』方式。外部のライターも多く、文章の質はバラバラ。記事など書いたことのない新人でも、「ネタを形にしたい」熱意が頼みの綱だからです。忙しい現場で誰も教えてくれないなか、自前のニュースソースと『週刊新潮』の記事マネでノウハウを身につけたと花田氏は打ち明けます。花田氏自身が初めて手がけたスクープは1970年の「富士銀19億円不正融資事件」。潜伏中だった犯人を香港まで追いかけ、警察に先駆けてインタビューを取ったもので、社長賞を獲得しました。以来、花田氏はスクープ人生(?)を歩み、野坂参三スパイ説から貴花田・宮沢りえ婚約解消危機まで、さまざまな話題を提供します。1989年には、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の加害少年4人の実名報道に踏み切り、少年法改正論議にも火をつけました。
ちなみに花田氏の文春時代の誌面作りは「売れるか・売れないか」が判断基準。販売日が迫ると、会社近くのコンビニで売れ残っている前の号を買いあつめる姿が人びとを突き動かしたと言われます。自分で買ってまで『週刊文春』の部数を伸ばそうとした愛情・意欲は報われ、編集長に在任してすぐ『週刊新潮』を抜いて発行部数日本一を獲得しました。
自称「アマ集団」だという文春がスクープを取れるかどうかは、編集長の資質次第だと「文春砲」の基礎をつくった花田氏は言います。現場がどんなに苦労して取ってきたネタも、「上の意向」次第で誌面にならなければ、モチベーションは下がる一方だからです。
2017年は下村元文科省ヤミ献金疑惑、山尾志桜里議員「お泊まり禁断愛」、2018年に入り小室哲哉不倫疑惑での引退騒動など、スクープを連発する現・新谷学編集長は「親しき仲にもスキャンダル」がモットー。その遠慮のなさ、ファクトを露出することへの熱意は「自分以上」と花田氏も太鼓判を押すつわものです。
<参考文献>
・「『週刊文春』と『週刊新潮』 闘うメディアの全内幕」(花田紀凱・門田隆将著、PHP新書)
・「『週刊文春』と『週刊新潮』 闘うメディアの全内幕」(花田紀凱・門田隆将著、PHP新書)
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