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なぜ人は他人の不幸を喜ぶのか?
「シャーデンフロイデ」という言葉をご存知でしょうか。心理学用語で「他者が失敗や不幸に見舞われ悲惨な状況にいることを喜ぶ感情のこと」をいいます。脳科学でも用いられており、最近ではネット炎上やバッシングなどの社会現象とともに、一般でも浸透し始めています。
『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』の著者、脳科学者で東日本国際大学教授の中野信子氏は、シャーデンフロイデのことを「いわゆるネットスラングの“メシウマ”というのが一番ぴったりくる」といいます。“メシウマ”は「他人の不幸で今日も飯がうまい」という意味です。
なぜ人は他人の不幸を喜ぶのでしょうか。脳科学や心理学の観点から考えてみたいと思います。
妬みは、自己より優れた他者と対比する「上方比較」、つまり「自分と同じ位置まで憧れの他者を引きずり下ろしたい」という感情によって生じます。一方、シャーデンフロイデは、自己より劣っている他者と対比する「下方比較」によって生じます。いうなれば「不幸によって悲しむ他者の状況を自分は喜んでいる」状態です。
誰かを妬む感情がシャーデンフロイデとなり、さらには糾弾やバッシングまで進んでいく。中野氏によると、この一連の行動原理に「オキシトシン」という脳内物質が深い関わりを持っているとのことです。ではオキシトシンは、いったいどんな働きをするのでしょうか。
ではなぜ、この好ましい作用をもたらしてくれるオキシトシンが、シャーデンフロイデという好ましくない感情と関係しているというのでしょうか。
その理由を中野氏は「人と人とのつながりを強めるのが、オキシトシンの本質的な働きである」と考えると説明がつくとし、「誰かとの間に情緒的な特別な絆ができるとき、脳ではオキシトシンがその回路を形作るのに一役買っています。裏を返せば、人と人とのつながりが切れてしまいそうになると、オキシトシンが“私から離れないで”“私たちの共同体を壊さないで”“私たちの絆を断ち切ろうとすることは、許さない”という感情を促進させ、関係性が切れるのを阻止しようとする」と述べています。
妬みはオキシトシンで強化され、シャーデンフロイデに至り、さらには最も生存率を下げる可能性の高い集団の崩壊の要因ともなる人物、既存の共同体や社会秩序を破壊し変更しようとする人物を排除しようとする社会的排除の原理にむかうとしています。
こうしてみていくと、シャーデンフロイデはオキシトシンという誰もが持っているホルモンや脳の働きで生じるものであり、誰しも避けて通れないという感情ということになってしまいます。
妬み・シャーデンフロイデ・恨みなどの研究をしている、心理学者で宇都宮大学准教授の澤田匡人氏は「妬みやすい人はパフォーマンスが高いのか?」(澤田匡人、藤井勉著『心理学研究』87(2)、日本心理学会)で「ポジティブな効果を有した妬みの存在」が、近年の研究で注目されていると述べています。
「ポジティブな効果を有した妬み」とは「良性妬み」ともいうべき感情で、例えば「他の人たちの優れた成果に、私も追いつこうと努力する」「他人を羨ましがることは、私にとって目標を達成する刺激になる」といった因子で説明されています。そして、良性妬みを抱きやすい人は目標を高く設定するため、結果として良い成績を得る効果があること可能性を示唆しています。
脳内物質であるホルモンのある意味で勝手な働き、ましてや妬ましい相手に自分の感情を左右されるのではなく、妬みやシャーデンフロイデといった負の感情があることを認めたうえで自身の生き方をコントロールすることが、他人の不幸を喜ぶといったことより、高次の、自分事としての真の幸せや喜びにつながっていくのではないでしょうか。
誰かを妬ましいと思ったときこそ、自分を高め自身の幸福を追求するチャンスなのかもしれません。
『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』の著者、脳科学者で東日本国際大学教授の中野信子氏は、シャーデンフロイデのことを「いわゆるネットスラングの“メシウマ”というのが一番ぴったりくる」といいます。“メシウマ”は「他人の不幸で今日も飯がうまい」という意味です。
なぜ人は他人の不幸を喜ぶのでしょうか。脳科学や心理学の観点から考えてみたいと思います。
妬みからバッシングに至る行動原理とは?
中野氏は「シャーデンフロイデは“妬み”感情と不可分なもの」といいます。では、シャーデンフロイデと妬みの相違と不可分性はどんなところにあるのでしょうか。妬みは、自己より優れた他者と対比する「上方比較」、つまり「自分と同じ位置まで憧れの他者を引きずり下ろしたい」という感情によって生じます。一方、シャーデンフロイデは、自己より劣っている他者と対比する「下方比較」によって生じます。いうなれば「不幸によって悲しむ他者の状況を自分は喜んでいる」状態です。
誰かを妬む感情がシャーデンフロイデとなり、さらには糾弾やバッシングまで進んでいく。中野氏によると、この一連の行動原理に「オキシトシン」という脳内物質が深い関わりを持っているとのことです。ではオキシトシンは、いったいどんな働きをするのでしょうか。
愛情ホルモン「オキシトシン」の暴走?
オキシトシンは脳下垂体後葉ホルモンで、語源はギリシア語の「早く生まれる」とうい意味からきています。子宮収縮作用や乳汁射出があるため、出産や授乳に深い関わりがあると考えられていますが、男性やオスにも存在しています。また「幸せホルモン」などとも呼ばれ、その分泌がスキンシップや安心感や信頼の気持ちの高まりなどとも密接な関係があるなど、基本的には人間に良い影響を与えるホルモンと考えられています。ではなぜ、この好ましい作用をもたらしてくれるオキシトシンが、シャーデンフロイデという好ましくない感情と関係しているというのでしょうか。
その理由を中野氏は「人と人とのつながりを強めるのが、オキシトシンの本質的な働きである」と考えると説明がつくとし、「誰かとの間に情緒的な特別な絆ができるとき、脳ではオキシトシンがその回路を形作るのに一役買っています。裏を返せば、人と人とのつながりが切れてしまいそうになると、オキシトシンが“私から離れないで”“私たちの共同体を壊さないで”“私たちの絆を断ち切ろうとすることは、許さない”という感情を促進させ、関係性が切れるのを阻止しようとする」と述べています。
妬みはオキシトシンで強化され、シャーデンフロイデに至り、さらには最も生存率を下げる可能性の高い集団の崩壊の要因ともなる人物、既存の共同体や社会秩序を破壊し変更しようとする人物を排除しようとする社会的排除の原理にむかうとしています。
こうしてみていくと、シャーデンフロイデはオキシトシンという誰もが持っているホルモンや脳の働きで生じるものであり、誰しも避けて通れないという感情ということになってしまいます。
妬みやすい人はパフォーマンスが高い?
シャーデンフロイデは好ましくない感情でありながら避けられない。そうなるとコントロールが必要になってきます。そこでもう一度、シャーデンフロイデ以前の感情である妬みに戻って、「良性妬み」に着目してみたいと思います。妬み・シャーデンフロイデ・恨みなどの研究をしている、心理学者で宇都宮大学准教授の澤田匡人氏は「妬みやすい人はパフォーマンスが高いのか?」(澤田匡人、藤井勉著『心理学研究』87(2)、日本心理学会)で「ポジティブな効果を有した妬みの存在」が、近年の研究で注目されていると述べています。
「ポジティブな効果を有した妬み」とは「良性妬み」ともいうべき感情で、例えば「他の人たちの優れた成果に、私も追いつこうと努力する」「他人を羨ましがることは、私にとって目標を達成する刺激になる」といった因子で説明されています。そして、良性妬みを抱きやすい人は目標を高く設定するため、結果として良い成績を得る効果があること可能性を示唆しています。
脳内物質であるホルモンのある意味で勝手な働き、ましてや妬ましい相手に自分の感情を左右されるのではなく、妬みやシャーデンフロイデといった負の感情があることを認めたうえで自身の生き方をコントロールすることが、他人の不幸を喜ぶといったことより、高次の、自分事としての真の幸せや喜びにつながっていくのではないでしょうか。
誰かを妬ましいと思ったときこそ、自分を高め自身の幸福を追求するチャンスなのかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(中野信子著、幻冬舎新書)
・「妬みやすい人はパフォーマンスが高いのか??良性妬みに着目して?」(澤田匡人、藤井勉著『心理学研究』87(2)、日本心理学会)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/87/2/87_87.15316/_pdf
・『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(中野信子著、幻冬舎新書)
・「妬みやすい人はパフォーマンスが高いのか??良性妬みに着目して?」(澤田匡人、藤井勉著『心理学研究』87(2)、日本心理学会)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/87/2/87_87.15316/_pdf
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