社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.09

カード支払い不可の店がカードに対応しない理由

  財布の中身を心配する必要がなく、便利でポイントも貯まるクレジットカード。しかし、身近にはカード支払いに対応しないお店や、ランチタイムは使用不可としているお店もあります。なぜお店によってキャッシュレスの対応に差があるのでしょうか。調べてみました。

「ランチタイムはカード支払いご遠慮ください」と言われてしまう理由

 クレジットカードが使えるお店かどうか、客の側はだいたいステッカーが貼ってあるかどうかで判断します。懐具合のきびしいときは、なおさらですね。ところが、クレジット会社の加盟店ステッカーのあるお店を選んでも、いざお会計のときに「ランチタイムは現金のお支払いのみ、承っております」と断られてしまう場合があります。

 この理由は、主にお店側がカード会社に支払う手数料にあります。

 業種やカードブランドにより異なりますが、およそ3%~7%がカード会社に渡される仕組み。ランチメニューをお店のカンバンとして、夜のために「出血サービス」しているような飲食店では、数%の利益率は命綱。カード利用を嫌がる心理もわからないではありません。

一方「完全キャッシュレス」レストランも登場している

 しかし一方では、「完全キャッシュレス」で「現金払いお断り」を売り物にするお店も出てきました。東京・小伝馬町の「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング・テーブル・パントリー)」、ロイヤルホールディングスの経営です。

 店内にレジを置かないお店は、2017年11月の開店以来、ニュースなどで話題を集めています。みんなが一斉に飲食店を利用するランチタイムなど、レジの行列によるストレスがなくなるのは、とても喜ばしいこと。お店側は売上管理業務を1日約40分省力化した、と伝わっています。

 今後はこういう二極化が広がっていくのでしょうか。

カードは持っていても、使うのはネットショッピング?

 カード会社大手のジェーシービー調べ(2017年度版)では、クレジットカードの保有率は84.2%。保有者一人あたりの平均保有枚数は3.2枚ですが、持ち歩かれるのは2.1枚に留まります。

 利用しているのは「オンラインショッピング(インターネットを通じた買い物)」や「携帯電話料金」がメイン。スーパーマーケットでのカード支払い利用経験者は29.8%、飲食店では16.4%、デパートでは12%と意外な少なさを示しています。

 カード決済では支払いに手間がかかる側面が嫌われているのでしょうか。

 とくに対面販売の場合、決済処理に万が一失敗した時の気まずさを思うと、さっさと現金払いするほうが後腐れがない、という客側の心理もありそうです。実際、決済処理がスムーズにいかないと、加盟店とカード会社の間で電話連絡が取られるケースもあるということです。

キャッシュレス社会の遅れとインバウンド消費への懸念も

 日本のキャッシュレス社会化は、世界と比べて周回遅れだと言われます。日本銀行が2017年に発表したレポートでは、紙幣や小銭を合計した現金流通高に対する名目GDP(国内総生産)比率は19.4%に達します。ユーロ圏では10.6%、米国は7.9%、英国は3.7%とあり、日本が圧倒的な「現金主義」であることが証明されたかたちです。

 日々支払いに応じる店舗側では、この動向が分かっているため「カード払いに対応しなくても顧客を失わない」と判断してきたのでしょう。

 海外からの観光客がカード払いを受け付けてもらえず、戸惑う場面にもまだまだ出会います。2020年のオリンピックに向けて「観光立国」を目指す政府としては、捨て置けない問題です。

 Visaの調査では、10人のうち9人の外国観光客が東京でカード払いを利用しようと思ったが、実際にいつも利用できたのは5人に2人だけだったとしています。もしカード払いを利用できる商業施設があったら、もっとお金を使うと思うと答えた観光客は66%。これによる「機会損失」は、大きな問題として議論されています。

 日本ならではの食事とショッピングは、日本を訪れる外国人にとっても日本人にとっても主な楽しみ。カード払いのできないお店は今後ますます減り続けていくのが運命かもしれません。

<参考サイト>
・株式会社ジェーシービー:クレジットカードに関する総合調査
http://www.global.jcb/ja/press/00000000162407.html
・株式会社NTTデータ経営研究所:クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会 第六回検討会資料
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoryu/credit_carddata/pdf/006_02_00.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動

国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
中西輝政
京都大学名誉教授 歴史学者 国際政治学者
2

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割

豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割

豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
黒田基樹
駿河台大学法学部教授 日本史学博士
3

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る

編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為

葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。

葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18
4

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較

葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生

葛飾北斎の娘であるお栄は、「応為」という画号で独自の絵画表現を切り拓いた。北斎とは異なる、女性ならではの描き方は、特に身体表現に現れ、西洋画の陰影表現の色濃い影響を感じさせる。積極的に新たな画法を吸収し、後世の...
収録日:2025/10/29
追加日:2025/12/13
堀口茉純
歴史作家 江戸風俗研究家
5

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

ルソーの「コスモポリタニズム批判」…分権的連邦国家構想

平和の追求~哲学者たちの構想(4)ルソーが考える平和と自由

かのジャン=ジャック・ルソーも平和問題を考えた一人である。個人の「自由意志」を尊重するルソーは、市民が直接参加して自分の意思を反映できる小さな単位を基本としつつ、国家間紛争を解決する手段を考えた。「自由の追求」に...
収録日:2025/08/02
追加日:2025/12/16
川出良枝
東京大学名誉教授 放送大学教養学部教授