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DATE/ 2018.11.27

半数が過労死ラインを超える公立教員の労働環境

働き方改革とは縁遠い公立学校

 「長時間労働と不払い労働」といえばブラック企業の専売特許のようなイメージですが、実は公立の学校にもこのブラックなキーワードが当てはまるのをご存じでしょうか。

 日本労働組合総連合会が、20歳以上の公立学校に勤務する教員1000名から回答を得た「教員の勤務時間に関するアンケート」では、勤務日(月曜日から金曜日まで)の1週間あたりの総労働時間平均が52.5時間であることがわかりました。また、週休日(土曜日と日曜日)にも10時間以上働いている教員が10.3%いるという結果に。学校外や自宅で労働している教員も多く、学校の内外を問わずに勤務日と週休日の労働時間をすべて合計した1週間あたりの総労働時間を見ると、「過労死ライン」に設定されている60時間を超える教員が過半数の53.4%にものぼったのです。

 このように過酷な長時間労働を強いられながらも、公立教員には残業代が支払われません。なぜなら、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」、略称「給特法」によって、公立学校の教員には残業代支払いを定めた労働基準法第37条が適用されないからです。法律のうえでは公立教員に「残業」は存在せず、時間外の労働はすべて「教員による自発的な行為」とみなされます。

 6月29日に成立した働き方改革関連法では、裁量労働制の拡大が「働かせ放題につながる」と批判を浴びたこともあって削除されましたが、公立学校ではすでに働かせ放題が定着しているといえます。この事態を重く見た文部科学省は「学校における働き方改革に関する緊急対策」を打ち出しましたが、行政の対応ははじまったばかり。公立教員にとって、働き方改革はまだまだ遠い存在です。

なぜ教員はこんなに忙しいのか

 それではなぜ、教員は過労死ラインを超えて働かなければならないほど忙しいのでしょうか。その理由は単純で、業務が多すぎるのです。

 教員の業務といえばまっさきに思い浮かぶのが授業ですが、まずはこの負担が増えています。現在の学習指導要領ではすべての科目に「言語活動の充実」が組み込まれており、授業の質の向上が必須です。言語活動の充実とは、子どもの「生きる力」を育てるために思考力・判断力・表現力などを身につけさせる指導のこと。このため教員それぞれに創意工夫が求められており、準備にかなり時間がかかります。教育現場としては悪評高い「ゆとり教育」から脱却したことをアピールする狙いもあるので、教員は「個性的で面白い授業をやらなくてはいけない」というプレッシャーと常に戦っています。

 しかもこれに加えて部活の顧問があります。特に運動系の部活は週5日ぎっしり活動することも珍しくなく、試合が休日に行われることも。こうなると引率する教員は休日出勤せざるを得ません。中学校なら進路指導も教員の業務です。ここへさらに運動会や学芸会、修学旅行などの学校行事が重なり、教員は準備や練習指導に追われます。また、一般企業ではムダが多いという認識が広まっている大人数・長時間の会議が常態化している学校が多いことも、教員の長時間労働につながっています。

 教員は免許を得て、子どもに教育を与えることを許可された人です。その点から考えれば、創意工夫を凝らした授業に時間をかけるのは当然でしょう。しかし授業に関係ない業務にまで時間を取られてしまうのは問題です。このためたとえば部活に関しては、指導や試合の引率を担当する「部活動指導員」が2017年から導入されました。このようなサポート体制をより充実させて、教員の負担を減らすことが急務です。

抵抗する意志を失った教員たち

 このように見てくると、公立教員の長時間労働の原因は大量の業務を与えている職場にあるといえます。しかし実は、深刻な原因がまだあるのです。

 それは、教員自身がこの過酷な職場環境を受け入れてしまっていること。もちろん、おかしいと思っている教員もいるでしょう。しかし「教員は子どもたちのために自らを投げ打って奉仕する」ことが美徳とされる教育の現場で、長時間労働への批判や抗議をすれば、「子どもたちに奉仕したくないのか」と反論されてしまいます。冒頭の「教員の勤務時間に関するアンケート」では、教員の約9割が自分の仕事に働きがいを感じています。つまりほとんどの教員は子どもたちのために働けることを喜びと感じているのに、その心を否定されてしまうのですから、抵抗はやめようと思うのも当然ですよね。

 ある40代の公立中学教員は、「業務を放っておいても誰もやらないから、長時間労働になっても自分がやるしかない。職場に抗議しても自分の力だけでは何も変えられないし、そもそも職場の意識を変えるためにやり合っている時間もない」とあきらめムードでした。またある50代の中学校事務員は、「教育者であっても、上の地位にいる人間ほど出世しか考えていない。教育委員会や保護者に評価されるには学校運営の体裁が整っていないといけないから、部活や行事を見栄えよくするために教員の負担が増える」と打ち明けます。元小学校教員の東和誠さんも、「教育現場では授業や学級経営より校務を積極的に行う教員のほうが高評価を得る」という内容を語っており、抵抗の意志を失った教員に職場の都合で長時間労働を強いるという公立学校の闇が浮かび上がります。

 地方公務員災害補償基金によると、2016年までの10年間に過労死と認定された公立学校の教員は63人。現状のままではさらに増えてしまうでしょう。働き方改革が叫ばれている今こそ、教員たちも当事者意識を持って適切な労働時間とその対価を求める時期にきているのではないでしょうか。

<参考サイト>
・日本労働組合総連合会 教員の勤務時間に関するアンケート
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20181018-01.pdf
・文部科学省 教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/09/1409224.htm
・トウマコの教育ブログ 民間企業から教員に転職して驚いた教員の世界の常識~10選~
http://makomako108.net/2017/01/12/kyouin-sekai-jyoushiki10/
(10MTV編集部)

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