テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.06.29

街の寂れた「金物屋」はなぜ潰れないのか?

 外観がボロボロで、明らかにお客さんが入っていなくて、どうやってあのお店は経営しているんだろうと不思議に思ったことはありませんか。たとえば、紳士服店や呉服屋さん、理髪店、定食屋などなど、いろいろと思い浮かぶ業種があると思いますが、今回取り上げるのは金物屋さんです。

 アマゾンをはじめとするネットショッピングが浸透し、大型のホームセンターが林立するいま、街の金物屋さんが生き残っていくのは至難のわざです。では、いったいどうやって稼いでいるのか。金物屋さんのサバイバル経営術に迫ります。

1982年には2万店以上あった

 いわゆる街の金物屋さんは80年代以降、ホームセンターの増加とともに大きく減少してきました。経済産業省の「商業統計表」によると、1982年には2万店以上もあった金物小売業のお店が2007年にはおよそ8千ほどにその数を減らしています。

 金物屋さんが位置する商店街自体がシャッター街化し、衰退していったことも廃業増加の大きな理由とされています。つまり、金物屋さんは現在にいたるまでもう数十年も苦境に立たされていることになります。まさにサバイバル時代を戦ってきたわけです。

強い金物屋さんは地域の便利屋さん

 廃業を余儀なくされた金物屋さんと、生き残っているものたちにはどんな違いがあるのでしょうか。まず第一に言えるのは、強い金物屋さんは金物業を専門にしていないという特徴があります。合鍵の作製やドアや窓の修理など、できるかぎり手広く地域の便利屋さんの役目を担っています。

 そのほかにも地縁の強みを生かし、学校指定業者となって、ある程度まとまった数の清掃用具などを納品して利益を出しているお店もあります。

富士フィルムとコダックの命運

 企業の大小にかかわらず、こうした新展開ができるかできないかが、その命運を左右します。たとえば、写真フィルムの大手の富士フィルムはデジカメの普及にともない売上が大幅に減少してきたことを受け、化粧品業界に進出しました。

 それまで培ってきた本業のテクノロジーを最大限に活用できるフィールドを発見し、成功をおさめています。他方、写真フィルムにこだわり続けたコダックは倒産の道を歩むことになりました。要するにどこにこだわりを見出すかの違いです。

地域住民だけが顧客ではない

 地域に利を見出すものもあれば、急速に発達をしたネット通販の波に乗って生き残っている金物屋さんもいます。建築金物や園芸用品などをネット販売するケースもあるようです。

 ポイントは地元の「住民」だけが顧客ではないということ。この戦略をとることによって、先述した商店街のシャッター街化など環境に振り回されない経営を行うことができます。

 地域の便利屋になるにしても、ネット販売に力を入れるにしても、既存のやり方にこだわらず新しい戦略をどんどん取り込んでいくことがサバイバルの秘訣と言えそうです。

 金物屋さんを揺るがす激動は、私たち個人の身にも迫っています。現代は、ひとつのテーマや方法にこだわり続けていては仕事も生活も成り立たない、いわば多極化の時代です。ぜひぜひ金物屋さんのサバイバル経営術を活用してください。

<参考サイト>
・商業統計の長期時系列データに見る 業種別商店数の増減とその要因
 https://www.hosei.ac.jp/fujimi/riim/img/img_res/WPNo.136_Minami.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(2)江藤淳の「リアリズムの源流」

文芸評論を再考するに当たり、江藤淳氏の「リアリズムの源流」を振り返ってみる。一般的に日本で近代小説が始まった起源は坪内逍遥だといわれるが、江藤氏はそれに疑問を呈す。そして注目したのが、夏目漱石の「坊ちゃん」であ...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/02
與那覇潤
評論家
2

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

地政学入門 ヨーロッパ編(1)地図で読むヨーロッパ

国際政治の戦略を考える上で今やかかせない地政学の視座。今回のシリーズではヨーロッパに焦点を当て、地政学の観点から情勢分析をする。第1話目では、まず地政学の要点をおさらいし、常に揺れ動いてきた「ヨーロッパ」という領...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
4

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか

キリスト教とは何か。「文明の衝突」が世界中で現実化する中、この問題は日本人にとっても重要なものになっている。上智大学神学部教授・竹内修一氏は、「キリスト教とは何か」という問いは、同時に「イエスとは誰なのか」も意...
収録日:2016/12/26
追加日:2017/02/28
竹内修一
上智大学神学部教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者