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東京に来たら方言を使う?使わない?
コンプレックスの象徴のように扱われたこともあった方言ですが、昨今の方言の使用状況はどのようになっているのでしょうか。
特に進学や就職による上京など、地元を離れた人達はそれまで慣れ親しんできた方言を、新天地でも使うのでしょうか。
ではそれぞれの理由はどうなっているのでしょうか。「方言を喋る」派の最も多かった理由は、“あくまでも地元が好き”といった「地元愛が強い」といった結果でしたが、ほかにも、“女の子の興味を引く”“受けがいい”といった「モテると思っている」という意見が挙げられていました。一方、「方言を喋らない」派には、「そもそも方言がない」といった理由が多く挙げられ、さらには「伝わらないから」「恥ずかしい」といった、経験からの意見が寄せられていました。
また、「方言を喋る」と答えた人の比率を、方言が特徴的な「関西地方」と「東北地方」の県ごとに取り上げて比較した結果は、喋る人の割合が多い順に以下のようになっています。
「関西地方」
京都府90.9%、
大阪府80.5%、
兵庫県75.0%、
奈良県71.4%:平均79.3%。
「東北地方」
秋田県57.1%、
岩手県42.9%、
山形県27.8%、
青森県22.2%:平均33.3%。
この結果からは、関西地方の人の平均は79.3%と方言への強いこだわりが感じられる一方、東北地方では平均が33.3%と低く、最も比率が高い秋田県でさえ関西地方の平均を下回るといった結果となっています。そして最も方言を喋る人の比率が低い青森県の人が方言を喋らない理由には、“上京したてのころに馬鹿にされた”など、過去に方言をからかわれた経験があるためという回答が多くあったそうです。
日本語学が専門で方言研究者でもある日本大学文理学部国文学科教授の田中ゆかり氏は、方言が話題の多彩なドラマ、小説・マンガ・アニメ・ゲームなどにたくさん登場する方言キャラ、さらには地方から発信される多彩な方言グッズや災害の折などに登場する方言による応援メッセージなどに触れ、「“方言”が様々な場面において大量に、そして多様な形で用いられているということは、こんにちが“方言”を“価値あるもの”としてポジティブに受容する時代であることを意味します」と論及しています。
さらに、「多様なコンテンツ類にあらわれる“方言”は、元々の意味における方言に備わる“特定の地域と結びついたリアルな生活の中で使われる素のことば”とは異なるものである<中略>両者を区別するために、前者を“リアル方言(本方言)”、後者を“ヴァーチャル方言(仮想方言)”と呼ぶことにします」とも述べています。
そして、“土地(地方)”から開放された“ヴァーチャル方言”は、インターネットやスマホの普及により多くの人が使用することになったメールやSNSなどの、顔を見ないでキーを打つ「打ちことば」に感情を乗せやすいことばとして、つまり「キブンを盛り込む手段としての“方言”」として相性がよかったことから広まっていると言及しています。
他方、「書きことば」としての方言の好例に、第158回芥川賞受賞作である若竹千佐子氏の『おらおらでひとりいぐも』があります。本作は、若い頃に東北から上京して今は都市近郊で一人暮らしをする70代の女性が、自身の人生を標準語と東北弁が入り交じった特徴的な文体で振り返る姿を描き、大きな話題となりました。
岩手県遠野市生まれの若竹氏は「方言は自分に正直な言葉で、私の思いがてらいなく表現できる」と述べ、選考委員を務めた作家の堀江敏幸氏は「若竹さんは体の中から爆発して出てきた方言に魅力があった」と評しています。
上京した人が“あえて”方言を使う時代、さらには“あえて自分の地元ではない方言”を“コミュニケーションのツールとしてより適したことば”として、標準語と並列して使い分けられる時代になっているのかもしれません。日本には、表現リソースとしての多様な地方方言が息づいています。機会があればぜひ一度、縁のある方言や興味のある方言から、見直してみてはいかがでしょうか。
特に進学や就職による上京など、地元を離れた人達はそれまで慣れ親しんできた方言を、新天地でも使うのでしょうか。
地元以外で方言を「喋る」割合は半々?
引っ越し業者の比較サイト「ズバット 引越し比較」のウェブクルーが2016年に実施した「あなたは地元以外で方言を喋りますか?」と質問したアンケート調査の結果では、「喋る53%・喋らない47%」(有効回答数:500人)という、方言を使う人の割合が若干上回ったものの、ほぼ同じ割合という結果が出ています。ではそれぞれの理由はどうなっているのでしょうか。「方言を喋る」派の最も多かった理由は、“あくまでも地元が好き”といった「地元愛が強い」といった結果でしたが、ほかにも、“女の子の興味を引く”“受けがいい”といった「モテると思っている」という意見が挙げられていました。一方、「方言を喋らない」派には、「そもそも方言がない」といった理由が多く挙げられ、さらには「伝わらないから」「恥ずかしい」といった、経験からの意見が寄せられていました。
また、「方言を喋る」と答えた人の比率を、方言が特徴的な「関西地方」と「東北地方」の県ごとに取り上げて比較した結果は、喋る人の割合が多い順に以下のようになっています。
「関西地方」
京都府90.9%、
大阪府80.5%、
兵庫県75.0%、
奈良県71.4%:平均79.3%。
「東北地方」
秋田県57.1%、
岩手県42.9%、
山形県27.8%、
青森県22.2%:平均33.3%。
この結果からは、関西地方の人の平均は79.3%と方言への強いこだわりが感じられる一方、東北地方では平均が33.3%と低く、最も比率が高い秋田県でさえ関西地方の平均を下回るといった結果となっています。そして最も方言を喋る人の比率が低い青森県の人が方言を喋らない理由には、“上京したてのころに馬鹿にされた”など、過去に方言をからかわれた経験があるためという回答が多くあったそうです。
方言を載せた「打ちことば」「書きことば」
その一方で方言は、いわゆる“地域的な喋りことばとしての言語”から、新たな展開をみせています。日本語学が専門で方言研究者でもある日本大学文理学部国文学科教授の田中ゆかり氏は、方言が話題の多彩なドラマ、小説・マンガ・アニメ・ゲームなどにたくさん登場する方言キャラ、さらには地方から発信される多彩な方言グッズや災害の折などに登場する方言による応援メッセージなどに触れ、「“方言”が様々な場面において大量に、そして多様な形で用いられているということは、こんにちが“方言”を“価値あるもの”としてポジティブに受容する時代であることを意味します」と論及しています。
さらに、「多様なコンテンツ類にあらわれる“方言”は、元々の意味における方言に備わる“特定の地域と結びついたリアルな生活の中で使われる素のことば”とは異なるものである<中略>両者を区別するために、前者を“リアル方言(本方言)”、後者を“ヴァーチャル方言(仮想方言)”と呼ぶことにします」とも述べています。
そして、“土地(地方)”から開放された“ヴァーチャル方言”は、インターネットやスマホの普及により多くの人が使用することになったメールやSNSなどの、顔を見ないでキーを打つ「打ちことば」に感情を乗せやすいことばとして、つまり「キブンを盛り込む手段としての“方言”」として相性がよかったことから広まっていると言及しています。
他方、「書きことば」としての方言の好例に、第158回芥川賞受賞作である若竹千佐子氏の『おらおらでひとりいぐも』があります。本作は、若い頃に東北から上京して今は都市近郊で一人暮らしをする70代の女性が、自身の人生を標準語と東北弁が入り交じった特徴的な文体で振り返る姿を描き、大きな話題となりました。
岩手県遠野市生まれの若竹氏は「方言は自分に正直な言葉で、私の思いがてらいなく表現できる」と述べ、選考委員を務めた作家の堀江敏幸氏は「若竹さんは体の中から爆発して出てきた方言に魅力があった」と評しています。
上京した人が“あえて”方言を使う時代、さらには“あえて自分の地元ではない方言”を“コミュニケーションのツールとしてより適したことば”として、標準語と並列して使い分けられる時代になっているのかもしれません。日本には、表現リソースとしての多様な地方方言が息づいています。機会があればぜひ一度、縁のある方言や興味のある方言から、見直してみてはいかがでしょうか。
<参考文献・参考サイト>
・『方言萌え!?』(田中ゆかり著、岩波ジュニア新書)
・「芥川賞に石井・若竹氏、直木賞に門井氏」(『日本経済新聞』2018年1月16日付)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25756340W8A110C1CR8000/
・【新生活をはじめる人必見】地方の方言 喋る派 VS 喋らない派 どっちが多い!?
https://www.zba.jp/hikkoshi/cont/special-content-20160421/
・【2016年 新生活調査】地元以外でも方言を喋るのは関西人青森県の方言は萌えると評判!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000277.000002830.html
・『方言萌え!?』(田中ゆかり著、岩波ジュニア新書)
・「芥川賞に石井・若竹氏、直木賞に門井氏」(『日本経済新聞』2018年1月16日付)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25756340W8A110C1CR8000/
・【新生活をはじめる人必見】地方の方言 喋る派 VS 喋らない派 どっちが多い!?
https://www.zba.jp/hikkoshi/cont/special-content-20160421/
・【2016年 新生活調査】地元以外でも方言を喋るのは関西人青森県の方言は萌えると評判!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000277.000002830.html
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追加日:2025/04/24