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あなたの食卓にも「昆虫」が並ぶ日が来る?
国連食糧農業機関(FAO)が2013年、食糧問題の解決策のひとつとして、「昆虫食」を推奨する報告書を発表しました。その背景には、世界的に人口が増加しているという現実があります。
2017年に公開された映画「ブレードランナー2049」で描かれた、気候変動により食糧難となった2049年の世界で、遺伝子組み換え技術で育てられたたんぱく質豊富な幼虫が食卓に登場しているように、栄養価の高い「昆虫」を、安定的に食糧に活用することへの期待値が高まっています。
ではなぜ、人間は「昆虫」を食べてきたのでしょうか。以下の3点が挙げられます。
1)「昆虫」が身近な存在であったこと。
昆虫料理研究科の内山昭一氏は、“食べられる「昆虫」のプロフィール”として、イナゴ、ハチの子、ザザムシ、カミキリムシ、カイコ、イモムシ、タガメ、ゾウムシ、セミ、バッタ、コオロギ、アリ、タケムシ、ハエ、カマキリなどを列挙し、カメムシやゴキブリを食べる文化もあることを紹介しています(『昆虫食入門』)。
さらに、立教大学教授で昆虫食文化を研究する野中健一氏は、“日本で食べられていた「昆虫」たち”として、クロスズメバチ、オオスズメバチ、イナゴ、カイコガ、カミキリムシ、セミ(クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ)、ゲンゴロウ、タガメを挙げています(『昆虫食先進国ニッポン』)
2)「昆虫」の栄養価が高いこと。
関西大学教授で栄養学者の吉田宗弘氏が、キイロスズメバチの成虫・蛹・幼虫の栄養素量を測定し、他の動物性食品と比較した研究成果を発表しています(『栄養と料理』)。このうち、水分以外の主成分であるたんぱく質と、変容によって変化の値の大きい脂質の結果をみてみましょう。
たんぱく質(g):
キイロスズメバチ成虫・24.8、
キイロスズメバチ蛹・13.9、
キイロスズメバチ幼虫・12.1、
アサリ・6.0、
マアジマ・19.7、
クルマエビ・21.6、
鶏肉(ささ身)・23.0、
豚肉(ロース)19.3。
脂質(g):
キイロスズメバチ成虫・2.9、
キイロスズメバチ蛹・6.3、
キイロスズメバチ幼虫・3.8、
アサリ・0.3、
マアジマ・4.5、
クルマエビ・0.6、
鶏肉(ささ身)・0.8、
豚肉(ロース)19.2。
一方、バッタ類の脂肪酸組成の調査からは、餌のイネ科植物の葉に由来すると考えられるn-3系多価不飽和酸脂肪(α-リノレン酸)の比率が高いことが判明したといいます。吉田氏は、「これらの数値から“昆虫”はほかの動物性植物、特に水産物と同等の栄養価を持つ食材と判断できます」と述べています。
3)昆虫が美味しいこと。
吉田氏はキイロスズメバチの幼虫と蛹をバター炒めにして食べてみたところ、「蛹はエビやイカを炒めたものと同様の食感と味であり、家族にも好評」で、幼虫は「ナッツ類のような風味があり、私は蛹より“おいしい”と感じました」と述べています。
また、内山氏がハチの子ボイルとウナギ白焼きの、コク・うま味・しょっぱさ・苦味の先味・苦味の後味の5項目を味覚センサーで計測し分析したところ、5項目がほぼ重なり、ほとんど同じ味として感知される結果が出たことを発表しています。
1)種類が多く、量も豊富なこと、
2)繁殖力が旺盛なこと、
3)変温動物でエネルギー効率がよいこと、
4)餌が人の食糧と競合しないこと、の4点を挙げています(『地球の救い方』)。
1)は内山氏の例にも示した通りですし、2)は生活の中で多くの人がいやがうえにも実感されていると思います。また、3)については東京工業大学名誉教授で生物学者の本川達雄氏は、恒温動物は変温動物の15倍食べると述べています(『生物学的文明論』)。
そして4)については、農業全般・環境技術・バイオマスが専門で、イエバエを活用した廃棄物処理システム「ズーコンポスト」の開発に携わるBBBジャパンの山口弘一氏は、家畜の飼育に必要な飼料の比較として、1kgの可食部の動物性たんぱく質を生成するために、牛・25kg、豚・9kg、鶏・4.5kgに対し、「昆虫」(コオロギ)は2.1kgでまかなえるという報告があると述べています。
さらに、「昆虫」は広い土地や大量の水もが不要なこと、糞は肥料になるなど、動物性たんぱく質を生成するにはとても合理的な方法であると提言しています。ただし、「昆虫食」の安全性は「昆虫」の食べるもの次第ですので、注意が必要です。
近年、新たな「昆虫食品」も誕生しています。従来のように「昆虫」の姿がそのままの食品だけでなく、粉末コオロギを活用したパン・パスタ・スナック菓子など、抵抗感のない食べ方を選択することも可能となってきました。
現代、先進国は飽食であり、多くの人が食を選択できることが可能です。他方、世界中の飢餓人口は増加しており、さらなる人口の増加も喫緊の課題となっています。おいしく貴重なたんぱく源として「昆虫」が選択されて食卓に並ぶ日が、やむなく「昆虫」を選択して食卓に並べる日が、はたまた知らないうちに見た目でわからない形で食品に組み込まれた「昆虫」が食卓に並んでいる日が、近い将来に来るのかもしれません。
2017年に公開された映画「ブレードランナー2049」で描かれた、気候変動により食糧難となった2049年の世界で、遺伝子組み換え技術で育てられたたんぱく質豊富な幼虫が食卓に登場しているように、栄養価の高い「昆虫」を、安定的に食糧に活用することへの期待値が高まっています。
「昆虫食」は身近で栄養価が高くおいしい?
文化人類学者のマーヴィン・ハリスが、「昆虫食を受け入れる食慣行が、きわめて多数の文化に、かつてはあった、あるいは今も現にある」と述べているように、人間は有史以前から世界中で「昆虫」は食べていました(『昆虫食入門』)。ではなぜ、人間は「昆虫」を食べてきたのでしょうか。以下の3点が挙げられます。
1)「昆虫」が身近な存在であったこと。
昆虫料理研究科の内山昭一氏は、“食べられる「昆虫」のプロフィール”として、イナゴ、ハチの子、ザザムシ、カミキリムシ、カイコ、イモムシ、タガメ、ゾウムシ、セミ、バッタ、コオロギ、アリ、タケムシ、ハエ、カマキリなどを列挙し、カメムシやゴキブリを食べる文化もあることを紹介しています(『昆虫食入門』)。
さらに、立教大学教授で昆虫食文化を研究する野中健一氏は、“日本で食べられていた「昆虫」たち”として、クロスズメバチ、オオスズメバチ、イナゴ、カイコガ、カミキリムシ、セミ(クマゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ)、ゲンゴロウ、タガメを挙げています(『昆虫食先進国ニッポン』)
2)「昆虫」の栄養価が高いこと。
関西大学教授で栄養学者の吉田宗弘氏が、キイロスズメバチの成虫・蛹・幼虫の栄養素量を測定し、他の動物性食品と比較した研究成果を発表しています(『栄養と料理』)。このうち、水分以外の主成分であるたんぱく質と、変容によって変化の値の大きい脂質の結果をみてみましょう。
たんぱく質(g):
キイロスズメバチ成虫・24.8、
キイロスズメバチ蛹・13.9、
キイロスズメバチ幼虫・12.1、
アサリ・6.0、
マアジマ・19.7、
クルマエビ・21.6、
鶏肉(ささ身)・23.0、
豚肉(ロース)19.3。
脂質(g):
キイロスズメバチ成虫・2.9、
キイロスズメバチ蛹・6.3、
キイロスズメバチ幼虫・3.8、
アサリ・0.3、
マアジマ・4.5、
クルマエビ・0.6、
鶏肉(ささ身)・0.8、
豚肉(ロース)19.2。
一方、バッタ類の脂肪酸組成の調査からは、餌のイネ科植物の葉に由来すると考えられるn-3系多価不飽和酸脂肪(α-リノレン酸)の比率が高いことが判明したといいます。吉田氏は、「これらの数値から“昆虫”はほかの動物性植物、特に水産物と同等の栄養価を持つ食材と判断できます」と述べています。
3)昆虫が美味しいこと。
吉田氏はキイロスズメバチの幼虫と蛹をバター炒めにして食べてみたところ、「蛹はエビやイカを炒めたものと同様の食感と味であり、家族にも好評」で、幼虫は「ナッツ類のような風味があり、私は蛹より“おいしい”と感じました」と述べています。
また、内山氏がハチの子ボイルとウナギ白焼きの、コク・うま味・しょっぱさ・苦味の先味・苦味の後味の5項目を味覚センサーで計測し分析したところ、5項目がほぼ重なり、ほとんど同じ味として感知される結果が出たことを発表しています。
近未来の食材としての「昆虫」の可能性
工学博士・一級建築士・東京大学名誉教授で地球環境問題にも詳しい月尾嘉男氏は、“食糧危機の救世主”として「昆虫」が優秀な食材である理由に、1)種類が多く、量も豊富なこと、
2)繁殖力が旺盛なこと、
3)変温動物でエネルギー効率がよいこと、
4)餌が人の食糧と競合しないこと、の4点を挙げています(『地球の救い方』)。
1)は内山氏の例にも示した通りですし、2)は生活の中で多くの人がいやがうえにも実感されていると思います。また、3)については東京工業大学名誉教授で生物学者の本川達雄氏は、恒温動物は変温動物の15倍食べると述べています(『生物学的文明論』)。
そして4)については、農業全般・環境技術・バイオマスが専門で、イエバエを活用した廃棄物処理システム「ズーコンポスト」の開発に携わるBBBジャパンの山口弘一氏は、家畜の飼育に必要な飼料の比較として、1kgの可食部の動物性たんぱく質を生成するために、牛・25kg、豚・9kg、鶏・4.5kgに対し、「昆虫」(コオロギ)は2.1kgでまかなえるという報告があると述べています。
さらに、「昆虫」は広い土地や大量の水もが不要なこと、糞は肥料になるなど、動物性たんぱく質を生成するにはとても合理的な方法であると提言しています。ただし、「昆虫食」の安全性は「昆虫」の食べるもの次第ですので、注意が必要です。
近年、新たな「昆虫食品」も誕生しています。従来のように「昆虫」の姿がそのままの食品だけでなく、粉末コオロギを活用したパン・パスタ・スナック菓子など、抵抗感のない食べ方を選択することも可能となってきました。
現代、先進国は飽食であり、多くの人が食を選択できることが可能です。他方、世界中の飢餓人口は増加しており、さらなる人口の増加も喫緊の課題となっています。おいしく貴重なたんぱく源として「昆虫」が選択されて食卓に並ぶ日が、やむなく「昆虫」を選択して食卓に並べる日が、はたまた知らないうちに見た目でわからない形で食品に組み込まれた「昆虫」が食卓に並んでいる日が、近い将来に来るのかもしれません。
<参考文献・参考サイト>
・『Blade Runner 2049(ブレードランナー2049)』(リドリー・スコット製作総指揮、ドゥニ・ビルヌーブ監督、ハンプトン・ファンチャーandマイケル・グリーン脚本、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
・『食と文化の』(マーヴィン・ハリス著、板橋作美訳、岩波書店)
・『昆虫食入門』(内山昭一著、平凡社新書)
・『昆虫食先進国ニッポン』(野中健一著、亜紀書房)
・「「昆虫食」の世界を探る」(吉田宗弘著、『栄養と料理』2016年8月号、女子栄養大学出版部)
・『地球の救い方』(月尾嘉男著、遊行社)
・『生物学的文明論』(本川達雄著、新潮新書)
・国際連合食糧農業機関(FAO) - 食品安全関係情報詳細
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03830870295
・Edible Insects - Future prospects for food and feed security - FAO
http://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf
・昆虫食の可能性|増える人口、不足する動物性たんぱく質
https://www.amita-oshiete.jp/column/entry/015142.php
・『Blade Runner 2049(ブレードランナー2049)』(リドリー・スコット製作総指揮、ドゥニ・ビルヌーブ監督、ハンプトン・ファンチャーandマイケル・グリーン脚本、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
・『食と文化の』(マーヴィン・ハリス著、板橋作美訳、岩波書店)
・『昆虫食入門』(内山昭一著、平凡社新書)
・『昆虫食先進国ニッポン』(野中健一著、亜紀書房)
・「「昆虫食」の世界を探る」(吉田宗弘著、『栄養と料理』2016年8月号、女子栄養大学出版部)
・『地球の救い方』(月尾嘉男著、遊行社)
・『生物学的文明論』(本川達雄著、新潮新書)
・国際連合食糧農業機関(FAO) - 食品安全関係情報詳細
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu03830870295
・Edible Insects - Future prospects for food and feed security - FAO
http://www.fao.org/3/i3253e/i3253e.pdf
・昆虫食の可能性|増える人口、不足する動物性たんぱく質
https://www.amita-oshiete.jp/column/entry/015142.php
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