社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.04.29

人の睡眠と覚醒のリズムは24時間サイクルではない

 目覚まし時計をいくつも使っても、朝すっきりと起きられない。夜は夜でなかなか寝付けない。こんな悩みを持つ方は少なからずいるでしょう。でも、こうした睡眠と覚醒のリズムのコントロールに苦労するというのは、ヒトが背負った宿命のようなものなのです。

人の睡眠と覚醒のリズムは24時間サイクルではない

 私たちの脳には、睡眠と覚醒のリズムを調節する機能が備わっています。大きく分けると、3種類の調節を行っており、1つは眠る時間(夜)になったら眠りを促す機能。もう1つは疲れたなと思ったら眠るという機能。そして、最後に危険を察知し不安を感じたら眠らないという機能です。これらの3つの機能のバランスをとることで、私たちの睡眠と覚醒のリズムは成り立っています。

 ここで少々やっかいなのは、この睡眠と覚醒のサイクルは25~26時間であるということ。日常生活を営むうえで必要な1日24時間というサイクルにはぴったり当てはまらないのです。この事実は、時計のない空間で、「自由に寝て起きて」を繰り返すという実験の結果、分かりました。つまり、私たちは睡眠にかかわる身体のリズムを、少々無理して1日24時間の枠に当てはめなければいけないということ。社会生活などおかまいなしに気ままに生きている人でない限り、このようなズレを我慢しなければいけないのは、致し方のないことなのです。

よい睡眠を得るために「きちんとした社会生活」を意識する

 だからといって、毎日辛い思いに耐えなければいけないわけではありません。毎日の行動に少し注意を払うことで、この睡眠・覚醒リズムを24時間に当てはめやすくすることができるのです。

 それは適度な運動や規則正しい食事時間を心がけること。そして、他の人と交流をすること、すなわち昼間の時間帯に他人と同調する生活を送ることです。好き勝手に食べたい時に食べ、外の光も浴びずに部屋に引きこもってゲームばかりしている。これでは不眠や睡眠障害を改善できません。ごく健康的できちんとした社会生活を送ることが、よい睡眠を得る第一歩となるのです。

早起きはOK、早寝は逆効果

 また、睡眠改善のためには「早寝」よりも「早起き」を意識する、というのもちょっとしたコツです。睡眠時間を確保したいという場合、どうしても「早く寝よう」と思いがちです。しかし、いつもの就寝時間を無理に早めると、かえって寝つきが悪く夜中に何度も目覚めることになりかねません。無理に早寝をするより、早起きをして昼間の活動性を上げる方が、夜適切な時間に眠くなり、ぐっすりと良い睡眠がとれるようになるのです。

 早起きすると昼間どうしても眠くなってしまうという場合は、適度な昼寝も効果的です。ただし、昼寝をするのなら15時くらいまでにすること。長さも1時間以内、できれば30分以内にとどめておけば、夜の睡眠を妨げるようなことにはなりません。

 就寝前のコーヒーなどによるカフェイン摂取や熱すぎるお風呂も避けましょう。カフェインは覚醒系の働きを活発にしますし、42度以上の熱いお風呂は交感神経を緊張させ、安眠を妨げてしまうからです。

寝酒よりも規則正しい生活を

 勘違いしやすいのは「寝酒」の効果です。ごく少量(日本酒なら1合程度)ならある程度のリラックス効果を及ぼすとは言えます。しかし、アルコールを分解するときに体は熱を発するため、その結果として体の深部体温は上がっていきます。体温上昇は「起きろ」というサインとなるため、寝酒は睡眠を妨げたり眠りを浅くしてしまうのです。さらには、飲酒量の増加、睡眠時無呼吸症候群といったリスクにも気をつけなければいけません。

 安定した睡眠を手に入れたいのなら、睡眠と覚醒のリズムを念頭に、生活習慣を見直すことから始めましょう。ほんの少し、日常的な行為に意識を向けることで、睡眠の質はよくなります。「8時間は眠らないといけない」などと睡眠時間の長さにとらわれずに、自分にあった方法で質のよい眠りを手にしてください。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地

般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地

徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟

「般若とは何か」――20歳の時、仏教学者・秋月龍珉から「仏法とは般若だ」という命題を受け、長年般若について探求してきた田口氏。般若とは「無分別知」、すなわち知識ではなく直感的理解であると説く。そして、東大名誉教授で...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/31
3

メダカの学校・総合的な学習(探究)の時間・逆参勤交代

メダカの学校・総合的な学習(探究)の時間・逆参勤交代

産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(4)社会課題の解決に取り組む人財産業

未来のプラチナ社会の実現に向けて、教育の見直しも欠かせない課題である。旧来的な知識伝達型の教育方法ではなく、教える側のダイバーシティを考慮した「メダカの学校」的なあり方や探究型学習の活用が重要なポイントとなる。...
収録日:2025/04/21
追加日:2025/10/30
小宮山宏
東京大学第28代総長 株式会社三菱総合研究所 理事長 テンミニッツ・アカデミー座長
4

忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論

忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論

東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ

東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キ...
収録日:2017/04/04
追加日:2017/06/13
一ノ瀬正樹
東京大学名誉教授 武蔵野大学人間科学部人間科学科教授
5

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性

クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か

サヘル地域をはじめとして、近年、世界各地で多発しているクーデター。その背景や、クーデターとはそもそもどのような政治行為なのかを掘り下げることで国際政治を捉え直す本シリーズ。まず、未来の“if”として台湾でのクーデタ...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/04
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長