テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.11.20

コロナ禍で「貯金が増えた」理由とは?

 コロナ前と後では、働き方も生活も大きく変わり、お金の使い方も一変したことでしょう。運輸、観光のように景況が非常にきびしい業界や、他にも雇用を絞り込む企業も少なくありませんが、一方で貯金は増えているという調査結果も出ています。それはいったいなぜなのでしょうか?

60代は503万円から905万円へ貯金が大幅増

 クレジットカードのメディアを運営しているリーディングテック株式会社が行った「貯金実態調査2020」によると、貯金額の平均は昨年度の317万円から389万円へアップ。貯金額の中央値は昨年度の100万円から200万円へと変わりました。内訳で見ると100万円未満という回答が43.5%から33.8%へ減り、1000万円以上と答えた層は7.3%から11.5%へと増加しました。100万円未満の回答の詳細を見ても、5万円未満の層は10.2%から6.4%と減っているように、回答者全体で貯金をする傾向が強まっていることが見てとれます。年齢別の貯金額の平均値では、横ばいの20代と微減の50代を除き増加。特に60代は503万円から905万円へと大きく伸ばしています。

 要因は様々でしょうが、考えられるのは特別定額給付金を始めとして臨時収入が1つ。そしてある程度生活に余裕がある層にとって何よりも大きいのは、観光やレジャーなど娯楽への出費の機会が制限されているということでしょう。60代の裕福な世帯が旅行を控えたことで貯金が増えた、それの裏返しで冒頭に挙げた運輸、観光業界は苦しんでいる、という構図になるわけです。

収入は増え、支出は絞り気味な傾向あり

 総務省統計局の家計調査報告を見てみると、2020年4~6月期での消費支出は1世帯あたり前年同期比9.7%減少の264546円。それに対し実収入は1世帯あたり684172円で前年同期比10.1%増(1世帯はともに2人以上の世帯。前年同期比は名目)。実収入が前年より増え支出が絞られているので、貯金が増えるのもうなずける数値でしょう。コロナ前と比べ、より先行きが見えづらい時代に入りつつあることで、できるだけ手元の貯金を確保しておきたい、というマインドになることも理解できます。麻生太郎副総理兼財務相が特別定額給付金について、「(10万円を給付した)その分だけ(個人の)貯金が増えた」と口にして物議をかもしましたが、一面においては正しいとも言えそうです。もちろん10万円をすべて消費に回す義務はないですし、ましてやすぐにすべて使う必要もないのですが。

 auじぶん銀行が行った「コロナ禍におけるお金への意識アンケート」でも、特別定額給付金を何に使ったか、使う予定か、という質問に対して貯金と答えたのは42.7%。支出については「増えた(18.2%)」「とても増えた(2.2%)」と回答した人よりも「減った(30.6%)」「とても減った(5.2%)」と答えた人の方が多いことからも、財布のひもが堅くなっていることがわかります。

 コロナを過去の話として語れるようになるのはまだまだ先になるかもしれませんが、ここで変わった消費スタイルが元に戻ることはないかもしれません。財やサービスを提供する側も、“ニューノーマル”を踏まえた商品を売ることが肝になってくることは間違いないでしょう。

<参考サイト>
・コロナ後の貯金平均は72万円増加し389万円。貯金実態調査2020
https://wiseloan-cash.com/savings2020/
・統計局ホームページ/家計調査報告 ―月・四半期・年―
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/index.html#shihanki
・麻生氏「10万円給付分だけ貯金増えた」 効果を疑問視:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASNBS63T7NBSTIPE00Y.html
・ビジネスパーソンのコロナ禍におけるお金への意識調査3人に1人が給与減で、「節約」「貯金を取り崩す」でやりくり。特別定額給付金の使い道は「貯金」「食費」等堅実派が多数。|auじぶん銀行のプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000103.000026860.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
2

日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい

日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい

DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果

認知的DEIが進んでいない場合、人口統計的DEIに注目することも大事である。特に男女の多様性という観点から注目すべきは「女性活躍推進」。その効果については「差別の経済学」という分野があり、これは女性を登用することで業...
収録日:2025/05/22
追加日:2025/08/29
山本勲
慶應義塾大学商学部教授
3

発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る

発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る

睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題

社会的時差ボケの発生には、働き方も大きな影響をもっている。特にシフトワークによって不規則な生活リズムを強いられる業種ではその回避が難しい。今回は、発がんリスク、メンタルヘルスの不調など、シフトワークが抱える睡眠...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/30
西多昌規
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 早稲田大学睡眠研究所所長
4

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員
5

動画講義だからこそ音楽と数学の深い関係がよくわかる!

動画講義だからこそ音楽と数学の深い関係がよくわかる!

編集部ラジオ2025(18)音楽って実は数学でできている?

「音楽」は、実は「数学」でできている――そのような話を聞いたことがあるかもしれません。数学と音楽といえば、ピタゴラスです。ピタゴラスは「音楽が美しく調和しているとき、きれいな数字が見えてくる」ということを発見した...
収録日:2025/06/25
追加日:2025/08/28