テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.03.21

為末大氏に聞くキャリア転換成功の秘訣とは

 「人生100年時代」といわれる現在、55才から64才まで、つまり「定年」という現実問題にもっとも近い、いわゆるミドルシニア層の意識調査では、「定年後も働きたい」と回答した人が約6割になるそうです。一方、近年は「一度入社したら、そこで定年まで勤め上げる」という考え方が薄れてきました。また、長い人生をより充実したものにするためにも、40才、あるいは50才でうまくキャリア転換したいという意識も高まっていると聞きます。

 そこで今回、キャリア転換という観点から参考にしたいのがアスリートです。肉体を酷使するアスリートは種目にもよりますが、人生の比較的早い段階で選手としての現役生活を退き、その先の「第二の人生」にキャリア転換しなければならないケースがほとんど。ではその後の人生を豊かにするためにどうすればいいのか。キャリア転換のポイントを、男子400メートルハードルの日本記録保持者(2020年11月現在)で、オリンピックにも3大会連続出場を果たした為末大氏(一般社団法人アスリートソサエティ代表理事)のお話から探ってみます。

自分のキャリアを言語化することから始めよう

 為末氏は、キャリア転換に踏み出す前段階としてまず「言語化する」ことを挙げています。「言語化する」とはどういうことかというと、自分のキャリアや能力、仕事内容について、仲間や同分野に詳しい人ではなく、異分野、専門外の人にも分かるような言葉にして伝えるということです。そのためには、自分のやってきたことを一旦整理して抽象化し、普遍的な言葉に言い換える必要があります。キャリア転換する場合、今までと全く同じ業界、関連の職種に再就職できるとは限りません。これまで積み上げてきたキャリアが他の業界でどう通用するのか、そこをアピールできるようにするといいということですね。

 そこで為末氏がすすめているのは、異分野の友人を持つことです。普段から自分の専門領域のことを異分野の友人にも分かるように「それはたとえば、こういうことだよね」と具体的に言語化して説明するトレーニングになるからです。これはスポーツの人だけに限りません。ビジネスマンの場合、社外の人、他の業界で働いている人などとのつきあいを広げてみるとよいでしょう。

「言語化」によって広がる自分の可能性

 先述の「言語化」に関して補足すると、できる限り自分のやってきた領域の言葉を使わないように意識するのも重要だと為末氏は言います。

 営業マンなら、例えば自分が営業のなかで関わってきたのはどんな局面なのか、あるいは自分はどんな状況や局面が得意なのかなど、会社名や製品名、専門用語などを使わず、一般的な言葉で表現してみる。そうすると、自分の具体的な特徴が浮かび上がってくるという利点もあります。それは、そもそも自分がどんな仕事に向いているのか、本当にしたいことは何なのか、といった本質的なことを見つめる良いきっかけにもなります。そうなると、セカンドキャリアの選択肢も増え、自分の可能性を広げていくことにもつながってくるのです。

プライドをうまくコントロールすることの重要性

 もう一点、キャリア転換のポイントがあります。それはプライドをうまくコントロールすることです。新しい仕事に就いたら誰もが新人。年下の上司のもとで働くといったことも大いにあり得ます。前職の肩書きや名刺にこだわるようなプライドとは決別することが大事だということです。

 スポーツ選手でもオリンピックに行くようなレベルにあった選手は、キャリア転換において、このプライドの面で大分苦労するといわれています。「外から見られている自分の姿」を意識してしまうからです。絶頂期にあった過去の自分と現在の自分とのギャップを受け止めきれず、落ち込んでしまうこともあるといいます。

 為末氏は、プライドのコントロールのためには「自分が今までやってきたことをなかったことにする」という思いきったリセットをすすめています。そのとき「ゼロから始めるのだ」と肚をくくるわけですが、たとえゼロからの再出発でも、実はそこから上昇するスピードや角度はかつての新人時代と比べても格段に上がっているはず。この点が「キャリア」の強みなのです。

 ちなみに、高齢者のサークルや施設の利用者のなかで、もっとも嫌われて誰からも相手にされないのは、昔の仕事の自慢話しかしない人だとか。キャリア転換も、より充実した人生を送るためにも、言葉の使い方はとても重要ということですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事