テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.08.27

日本の「タクシー」でよく使われる車種とは

 ここ数年タクシーの車種に変動が起こっています。「ジャパンタクシー」と呼ばれる新車種は2017年の終わり頃から少しずつ増えてきました。これまで一般的だったセダンタイプとは異なり、背が高めで丸っこい車です。いったいどういう変化が起きているのでしょうか。ここではタクシーの車種をめぐる状況を整理してみます。

トヨタクラウンは豊かさの象徴だった

 タクシーといえばトヨタクラウン(クラウンコンフォート)というのが定番でした。しかし、2020年11月にクラウンは生産停止が発表されます。クラウンといえば今から65年以上前、1955年(昭和30年)に販売開始されて以来、庶民にとって憧れの高級セダンでした。「いつかはクラウン」のキャッチコピーのもと、豊かになっていく日本の象徴的な車と言ってもいいでしょう。

 あの「クラウンに乗れる」ということもタクシーに乗る価値の一つだったかもしれません。現在でもクラウンタクシーはたくさん走っています。またタクシー会社も最後のクラウンをストックしているところも多いようなので、もうしばらくクラウンタクシーに乗ることはできそうです。

セダンからSUVへ

 クラウンがタクシーとして長年利用されてきた背景には、タクシーとしての改造をディーラーがバックアップしていた点が大きいようです。タクシーは燃料がLPガスであったり、自動ドアを整備していたりといった特別仕様です。また同じ車種であればパーツの在庫も揃えやすいといった事情もあります。また利用者も、クラウンの高級感を感じながら安心して乗ることができました。いわばこれまでは、ある程度需要と供給の体制が一致していたと考えられます。

 ではなぜこうした安定した需要のあったクラウンは生産を停止するのでしょうか。大きくは世の需要の変化という他ないようです。現代ではSUVが大人気です。SUVは広い居住空間や車高が高いことによる運転のしやすさといった、実用性が評価されています。さらに、スポーティなデザイン性もあって、軒並み売り上げを伸ばしています。対してセダン市場は縮小傾向です。

 クラウンを求めてきた世代は高齢化しています。国内自動車市場は需要の方向性が変わる時期と言えるでしょう。また世界的に展開している車種であれば話は変わってきますが、クラウンは日本市場がメイン。もちろん高級車としてのステイタスや、タクシー車両としての独自の訴求ポイントはありますが、セダン全体が人気を落としている現状では売り続けることはできなかったと考えていいようです。

ジャパンタクシー

 このクラウンの後継を担う車種としてトヨタが投入しているのが、ジャパンタクシーです。車高が高めのシエンタをベースとして開発され、2017年の終わりに発売されました。車椅子やベビーカーのまま乗降できるスロープがあるなど、乗降のしやすさは特筆すべきポイントです。またブレーキアシストを装備して安全性にも配慮されています。LPガスハイブリッドエンジンを搭載し、燃費性能もJC08モードで19.4km/L、WLTCモードで16.8km/Lとなかなかの低燃費。このように、ジャパンタクシーはこの先のタクシー車両としての筆頭格ですが、ことはそう簡単ではなさそうです。

 車両価格が標準グレードで338万5000円とやや高く、車高が高くなった割には、ラゲッジスペースの積載性能は従来のクラウンと変わりません。この点でタクシー会社の中には導入に慎重なところも多いようです。また、ガソリンよりもLPガスの方が安いことからタクシーはこれまでもLPガスを燃料としてきました。しかし、皮肉なことに燃費がよくなり過ぎたことでLPガススタンドの数が減っています。こうした不便があることから、ジャパンタクシーではなくベース車両であるシエンタそのものを、LPガス・ガソリンの両方が使える仕様(バイフューエル仕様)に改造して、タクシーとして使用する会社もあるようです。

他のメーカーは参入に消極的

 こういったさまざまな理由から現在のタクシー車両には、ややバラエティが生まれてきたと言えるかもしれません。トヨタ車以外にも日産は、数は少ないながらも以前からクルーやセドリックなどの車種をタクシー車両として販売しています。また、2015年(平成27年)には法令が変わり、現在ではどのような車種でもタクシーとして使えるようになっています。

 それでもタクシー市場はほぼトヨタ車が占めてきました。これはなぜかといえば、市場規模が小さいという点に尽きるようです。さらに、タクシーには一般的ではないLPガスハイブリッドエンジンが求められます。わざわざコストをかけて他社がこのドメスティックな市場に参入するメリットはないといえます。

<参考サイト>
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由|PRESIDENT Online
https://president.jp/articles/-/43552
ジャパンタクシー|TOYOTA
https://toyota.jp/jpntaxi/
なぜトヨタばかり? 日産やホンダがタクシー車両に本格再参入しないワケ|WEB CARTOP
https://www.webcartop.jp/2020/06/539795/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員