テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.09.01

残業も成長もない「ゆるブラック企業」とは

 仕事を通して得たいものといえば、やりがい、給与、評価、成長といったものでしょうか。もちろん全て求める人もいれば、何か一つだけでいいという人もいるでしょう。働き方には多様性が生まれてきました。世の意識変化とともに昨今、「ゆるブラック企業」という言葉も出てきています。「ゆるブラック企業」とはどういった企業なのでしょうか。

悪くないけれど成長もない職場

 ブラック企業の特徴といえば、長時間労働、サービス残業、パワハラといった問題が放置され、常態化しているような職場です。これによって離職率が高いことも特徴。一方ホワイト企業は残業が少なく、ハラスメントに対する意識があり、それなりに待遇がいい企業だといえます。ただし、こうした条件を備えた職場であっても、仕事を通した成長がなければ労働からの満足は得難いかもしれません。この要素がない場所が「ゆるブラック企業」と呼ばれるようです。

 つまり、「ゆるブラック企業」は、長時間労働はなく給与は可も不可もない代わりに、特に身につくスキルもなく、またそれによって昇給もないような職場です。成長するには適切な高さのハードルを越える必要があります。このハードルがないのが「ゆるブラック企業」の特徴です。競争が少ない分、人間関係も良好な場合が多いようですが、「働きがい」はないと言えるでしょう。

「ハードワーク率」と「育った率」で考える

 ではどういった企業がこの「ゆるブラック企業」なのでしょうか。ここでは業種から大まかに傾向を見てみましょう。DIAMOND onlineの記事で興味深いものがあります。業種ごとにそこで人が「育った率」をだしてみるというものです。記事ではOpenWorkがまとめた社員口コミデータをもとに、20代がどれだけ仕事に「やりがい」を感じているか分析しています。まず月60時間を越える残業をしている人の割合を「ハードワーク率」とします。この「ハードワーク率」を20代に絞って抽出し、さらにそのうち「20代成長環境スコア(5点満点)」に4.0以上をつけた人の業種別割合を出します。これがその業種における「育った率」です。

 この「育った率」を詳しく業種別に見ると、もっとも割合が高いのは「コンサルティング」の66.5%、ついで「IT・通信・インターネット」の51.0%、3位はマスコミの46.3%。逆に最も低いのは「インフラ・運輸」の22.9%、ついで「メーカー・商社」の29.5%、続いて「メディカル」32.8%となっています。ちなみに「ハードワーク率」だけで見ると、「コンサルティング」が最も割合が高く46.3%、ついで2位が「マスコミ」で42.5%、3位は「不動産・建設」の35.7%です。

 総合すると、コンサルティング業界はハードワークが多く、さらに「育った率」も高いことがわかります。ハードワークが求められつつも、経験によって成長できたと感じる人が多いようです。一方、インフラ・運輸業界は、ハードワークは少なく、また成長に繋がった実感も少ないと言えます。ある意味「ゆるブラック企業」に近い要素があるのかもしれません。

ゆるブラック企業に向いている人

 仕事に対する価値観は多様化しています。一つの企業で基本的な収入を得ながら、副業でやりたいことを磨くという人や、趣味に没頭するために一定の収入さえあればいいという人もいるでしょう。またなんらかの状況によって、仕事にエネルギーを注げない人もいるかもしれません。こういった状況であれば「ゆるブラック企業」は、ノルマや人間関係といったストレスを溜め込まなくて済むので、需要にマッチした職場と言えるでしょう。

 ただし、これはやはり一時的に働く場所としての価値です。それなりに長い年数働くとすれば視野を広くする必要はあるでしょう。年齢を重ねた分、他に能力がなければ、いざという時に抜け出すのは難しくなります。また、特に大きな問題は生じにくいので、辞めるタイミングを失ってしまうかもしれません。長い目で見れば、時間の経過に応じた「成長」がない「ゆるブラック企業」は、じわじわと労働者の価値をすり減らしていく、という捉え方はできるのではないでしょうか。

<参考サイト>
残業はないが成長もない「ゆるブラック企業」が多い業界、少ない業界|DIAMOND online
https://diamond.jp/articles/-/208868
ゆるブラック企業で働き続けるリスクとは|仕事にやりがいを見出すための転職3ステップ|キャリアゲ
https://rebirthlab.com/magazine/?p=4903
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(1)ChatGPT生みの親の半生

ChatGPTを生みだしたOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの進化・発展によって急速に変化している世界の情報環境だが、今その中心にいる人物といっていいだろう。今回のシリーズでは、サム・アルトマンの才能や彼をとりまくアメ...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/19
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
2

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元

日本語の発音は、漢字到来以来一千年の歴史を通してどう変わってきたのか。また、なぜ日本語は「文明語」として世界に名だたる存在といえるのか。二つの疑問を解き明かす日本語学者として釘貫亨氏をお招きした。1回目は古代日本...
収録日:2023/12/01
追加日:2024/03/08
釘貫亨
名古屋大学名誉教授
3

歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える

歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える

運と歴史~人は運で決まるか(1)ソクラテスが見舞われた「運」

歴史における「運」とはどういうものだろうか。例えば、富裕と貧困という問題について、「運」で決まるのか、あるいは「運」とは異なる努力、教養、道徳などの要素で決まるのかという点でも、思想家たちの考え方は分かれる。第1...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/18
山内昌之
東京大学名誉教授
4

急成長するインドネシアとトルコ、その理由と歴史的背景

急成長するインドネシアとトルコ、その理由と歴史的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(3)インドネシアの成長とトルコの外交力

グローバル・サウスの中でも高度経済成長を遂げているのがインドネシアだ。長期のスカルノ時代とスハルト時代を経てその後に民主化が進んだ、東南アジアで最大のイスラム教国である。また、トルコは多国間に接する地理的特性と...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/17
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?

ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?

和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1

日本古来の詩の形式である和歌。しかし、その中身について詳しく知っている人は少ないのではないだろうか。渡部泰明氏が和歌のレトリックについて解説するシリーズレクチャー。第一弾である今回は枕詞についてで、その知られざ...
収録日:2019/03/11
追加日:2019/06/15
渡部泰明
東京大学名誉教授