テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.10.19

ガソリンは「売り切れ」になるのか?

 ガソリンスタンドは欠かせないインフラです。燃料が売り切れているという状況に遭遇した人は、あまりいないのではないでしょうか。もちろん災害時など、特殊な状況で給油が殺到した際は売り切れることもありますが、普段の生活では稀です。ガソリンなどの燃料供給はどのような仕組みで行われているのでしょうか。

48キロリットルタンクでおよそ800台分

 ガソリンスタンドの地下には巨大なタンクが眠っています。小規模のガソリンスタンドでは容量10キロリットルのタンクが1基程度設置されています。また幹線道路沿いや物流センター付近のやや大きめのガソリンスタンドにはこういったタンクが複数設置されていたり、30キロリットルや48キロリットルといった大きなタンクを備えていたりするところもあるようです。量の目安としては、48キロリットルでおよそ自動車800台分を満タンにするくらいの量です(1台60リットルで換算)。ちなみに48キロリットルタンクの長さは約12メートルの寸胴型で直径は2.5m。なかなかの大きさです。

災害では売り切れることもある

 このタンクに燃料を補給しにくるのが、製油所や油槽所とガソリンスタンドを回る石油元売りメーカーのタンクローリーです。タンクローリーは10キロリットルから30キロリットルを一度に運んできます。このタンクローリーがいくつかの店舗を巡回しながら燃料を渡していくのですが、もちろんガソリンスタンドによって在庫量は異なります。この管理には、コンビニなどと同じくPOS(Point Of Sales=販売時点情報管理)システムが使われていて、細かくリアルタイムで状況が把握できるようになっています。

 こういった在庫管理システムにより、燃料が売り切れることはないようになっています。販売量の多いところでは1日に数回タンクローリーがやってくることもあるようです。ただし、災害などで巡回できない状態になると、売り切れも起こるようです。たとえば、豪雪地帯などでは雪でタンクローリーが走れなくなり、燃料が売り切れてしまうといった状況がしばしば起きています。

環境への配慮と24時間365日の物流システム

 タンクローリーが燃料をガソリンスタンドのタンクに補給するときには、燃料をタンクに入れるだけでなく、タンクの中からベーパー(Vapor)と呼ばれる気体をタンクに回収します。ベーパーとはガソリンスタンドのあの独特の匂いの元、いわゆる気化したガソリンの蒸気です。これはPM2.5や光化学スモッグの原因となる物質です。こうしたことからベーパーは大気中には放出せず、燃料の代わりにタンクローリーが回収する仕組みになっています。

 また、ガソリンは引火しやすく危険な燃料であることから、災害時の対策も十分に意識されています。1995年の阪神淡路大震災では電気・ガス・水道といったライフラインは広範囲で寸断されていますが、被災地域内869ヶ所のガソリンスタンドは2日後には大半が営業を再開したそうです。ガソリンの供給は、こういった安全管理が徹底されています。その上で、在庫管理と物流システムが24時間365日正常に働き続けることによって成り立っています。

<参考サイト>
ガソリンはなぜ売り切れにならない? 需要増減に対応出来る理由とは|くるまのニュース
https://kuruma-news.jp/post/354315
いつでも給油可能なイメージのガソリンスタンド! 「売り切れる」ことはないのか?|WEB CARTOP
https://www.webcartop.jp/2020/07/552965/
ガソリンベーパー対策|九都県市首脳会議 環境問題対策委員会 大気保全専門部会
http://www.9taiki.jp/gas/pdf/gv_leaf.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために

大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために

硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025-07-09
追加日:2025/08/15
門田隆将
作家 ジャーナリスト
2

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る

「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念

今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025-06-14
追加日:2025/08/18
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
3

原発建設には10年以上も…小型モジュール炉の可能性と課題

原発建設には10年以上も…小型モジュール炉の可能性と課題

日本のエネルギー政策大転換は可能か?(2)世界のエネルギーと日本の原発事情

再生可能エネルギーのシェアが世界的に圧倒的な伸びを見せる中、第7次エネルギー基本計画において原子力発電を最大限活用する方針を示した日本政府だが、それはどこまで現実的なのか。国際エネルギー機関が発表した今後のエネル...
収録日:2025-04-04
追加日:2025/08/17
鈴木達治郎
長崎大学客員教授 NPO法人「ピースデポ」代表
4

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機

トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(2)米中対立の現在地

世界第一、第二の経済力を誇る米中の対立は由々しい問題である。第1次トランプ政権下で始まった対立はバイデン政権に継承されてきたが、トランプ第2次政権では主題はもっぱら経済に集中している。われわれも米中協議の行方を注...
収録日:2025-06-23
追加日:2025/08/14
佐橋亮
東京大学東洋文化研究所教授
5

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化

DEIの重要性と企業経営(2)人的資本経営とウェルビーイング経営

今、企業の中に「人的資本経営」が急速に浸透している。経産省の定義によると、人的資本経営とは、人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。類似する概念と...
収録日:2025-05-22
追加日:2025/08/15
山本勲
慶應義塾大学商学部教授